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「おおっ、あんたらは!」
俺とフランが入り口に差し掛かると、門番役の男が声を上げた。
「この間モンスター達をやっつけてくれた! えっと、確か、スレ、スレ······」
「スレイヤー屋だ」
「そうそう、それ。ははは、もうボケてきちまったかな」
男は誤魔化すように笑った。
「さあ、村長の所へ行ってくれ。なんでも、まだ報酬をわたせていないとか言ってたからな」
村へ入り、村長宅へと向かう。
俺らが歩いていると、近くを通りかかった村人のほとんどがあっ、と声を上げて礼の言葉を投げ掛けてきた。
「ありがとう!」
「ゆっくりしていってくれ!」
「よ、ヒーロー達!」
明るい称賛に、フランは嬉しそうに笑った。
「えへへ。なんだか照れくさいね」
「そうだな。まるで良い事した気分だ」
「良い事はしたでしょ」
「うーん。まあ、良い事は良い事かもしれんが、仕事だしな。特別に善行した訳じゃないんだが」
だが、明るい村人達の顔を眺めていると、自尊心のような物が少しくすぐったくなる。
「称賛や尊敬は報酬に含まれない、か」
軽蔑されたり罵倒された時のために自分で割り切っていた考えだが、やはり嬉しくなるものだな。
村長宅に着き、ノックをすると『どうぞ』という声が返ってきたので、お邪魔する。
俺とフランの姿を見るや、ゆったりと椅子に座っていたワイル村長が立ち上がった。
「おおっ、君らか。待っていたよ」
皺の多い顔をくしゃりと笑みにして、握手してくる。
「あれからモンスター達がピタリと出なくなってな。やっと畑の事を考えられるようになった。もう感謝してもしきれない」
「そうか。だが、モンスターらの行動は謎だらけだからな。油断はしない方がいい」
「もちろん。今の内に頑丈な柵とか作って備えているんだ。またこんな事が起こるかもしれないからな」
そう言いながらも、村長はすっかり緩んだ笑みを浮かべながら俺らにソファを勧めた。
「さあ、ゆっくりくつろいでくれ。今約束の報酬金を持ってくる。あ、良かったらこれを飲んでいてくれ」
そう言って、この間飲んだジュースのビンとグラスを俺らの前に置いた。
奥の部屋へと消える村長。
俺らは遠慮なくソファで寛いで待つ事にした。
「村長のおじいさんもすごく喜んでたね」
「そうだな。これですっかり安泰って訳ではないだろうが、今の内にモンスター対策とか出来るだろうしな」
すぐにニコニコした笑顔が戻ってきた。
「さあ、受け取ってくれ」
そう言って村長の爺さんが差し出してきた報酬金はパッと見ても1,000ゴールドはありそうだった。
「おいおい。報酬金は200ゴールドでいいんだぜ?」
「いや、これはほんの気持ちだよ。気持ちとしてはもう3,000ゴールド払ってもいいくらいだ」
「いや、流石にそんなには······」
だが、断る理由もないし、これは爺さんの気持ちだ。
とは言え、こちらから提示した以上の額は······。
「いや、やっぱり止めとこう。200ゴールドだけ受け取るよ」
そう答えると村長は驚いた顔をした。
「遠慮する事はないんだよ?」
「ありがとう。でも、これは俺なりに出した答えなんだ。だから報酬は200ゴールドきっちり頂くぜ。だけど、そうだな······。代わりと言うのもおかしいかもしんないが、俺らの商売の事を宣伝して欲しい」
「宣伝?」
「ここに訪れる旅人や商人、馬車便の人間とかに俺らの事を話しておいて欲しい。ちゃんとスレイヤー屋だってな」
「もちろん、それくらいお安いご用だが······」
村長は不思議そうに首を傾げた。
「本当に報酬金はいいのか?」
「ああ。それに、モンスターは絶滅した訳じゃない。また今回みたいな困った事だってあるかもしれない。だから、その時のために軍資金として取っておいてくれ。つまり、またご贔屓にお願いするぜ」
「······分かった。君がそう言うならそうしよう」
村長は真っ直ぐこっちを見て握手を求めてきた。
「また何かあったら必ず君達に頼もう」
「お邪魔しましたー」
少しの間、村長と今後の対策などを話してから、俺とフランは帰る事にした。
もう特に用は無いが、この村のジュースは美味いので少し買っていこうというフランと共に農家の販売所へと向かった。
「ねえ、トレイル」
歩きながらフランが訊ねてきた。
「どうしてお金を受け取らなかったの?」
「お? なんだなんだフラン。お前は何時からそんなに強欲になったんだー?」
「違うって~。そうじゃなくてさ。トレイルはお金大好きだし、事実私達はお金をたくさん稼いでおきたいとこなのに、なんで断ったのかなって。別に悪い事でもなんでもないし、断る理由もなかったから」
「そうだな······まあ、実は上手く言えないんだが、けじめ、みたいなもんかな」
「けじめ?」
丸い目をコロンっと傾けるフラン。
「ちゃんとした商売でやってくなら、その場の感情とか欲望で契約内容を変えるなんて駄目だと思ったんだ。何時でも、誰でも安心して依頼出来るように『契約金を追加で要求する奴ら』という実績は作りたくない。ちゃんとルールに従い、例外なくきっちりと仕事をする。いい加減な奴らじゃない。そういう信頼みたいなのを確立しておきたいんだ」
「おお~っ······ト、トレイル! カッコいい!」
俺の幼馴染みは目をキラキラと輝かせた。
「凄い! そこまで考えていたなんて! トレイルがそんなに立派な事を考えていたなんて!」
「ふ、惚れたか?」
「ふふ、ちょっぴりね」
はにかむフランが可愛らしかった。
「そうだね。うんっ、トレイルの判断は正解だね! 流石は店長!」
「おう、任せておけ。ん?」
と、そこで何者かの視線を感じたので、振り返ってみると、近くの木の陰から俺らをじっと見つめる者が居た。
「あれは確か······」
この間のエルフの少女だ。確か、亜人だという理由で軍人に怪我させられたという。
少女目を逸らして、何か迷うような素振りをしていた。
それを見かねたのか、フランが声を掛ける。
「ねえ、こっちに来てお話しない? 私達、偏見とか人種意識とか全然無いよ?」
「······」
少女はまだ何か迷っていたが、意を決したように表情を引き締めてこっちに走ってきた。
そして、無言のままズイっと麻を編んだ包みを押しつけてきた。
「はいっ······これ」
「え?」
「じゃっ」
「あ、待って」
包みを、フランに押しつて走り去っていく少女。
包みを開けると、中から手作りらしきパイと、『ありがとう。ごめんなさい』という手紙が入っていた。
「あはっ······。ねえ、トレイル」
「ん?」
「これから大変な事なんて沢山あるだろうけどさ。私、この仕事やってて良かったかも」
「はは、早いな」
だが同意だ。
俺らはパイを早速食べながら目当ての店へ向かった。
近くから、やはりこっそりと注がれる視線に苦笑しながら。
お疲れ様です。次話に続きます。




