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「まいどーっ」


 数札の本をバッグに仕舞いながら書店を出る。

 外に出たところでナズとターナの二人が申し訳なさそうな顔を下げてきた。


「すみません。せっかく稼いだお金なのに······」

「オ、オラみたいなのにお金なんか······」

「言ったろ? 十分採算がとれると踏んだ出費だ。これほど立派な共益費の使い道はないだろう」


 これは慰めや気遣いではない。本当にそうだと思っての意見だ。


 だが、二人は必要以上にかしこまってしまい、このままでは買い物しにくいな。

 となれば──


「まあ、だが。かなりの出費だったのは確かだ。これを早々に回復する必要はある」

「薬草採集に森に行くなら、私もついていきますっ」

「オラも行くだっ」

「いや。実は二人には黙っていたんだが、もっと確実に稼げる場所があるんだ」

「ええっ!? ほんとですか?」

「どんな穴場ずら?!」


 目を丸くする二人。


「それはだな──」





 ──ザッ──


「ここだっ!」

「······」

「ずら?」


 思考停止したかのように固まるナズ。そして首を傾げるターナ。


「ここは酒場ずら?」

「ああ。この酒場でのカードはレートが高くてな。ここなら一晩でどどーんっと金持ちに······」

「トレイルさんっ!」

「なんだナズ。イカサマのやり方でも教えて欲しいのか? 止めときな。バレたら川に沈められるぞ」

「もうっ。そうじゃなくて。駄目ですからね、賭博なんかに使っちゃ」

「そうか。なら、せっかく持ってきた金も他に使い道ないからな。お前らの道具を買いに行くしかない」

「えっ、そ、それは······あの······。もちろん、賭博よりは良いのですが······」


 困ったように上目遣いで見上げるナズ。


「ターナ。賭博と解体用ナイフ、どっちに金を使うべきだと思う?」

「そんなのもちろんナイフだべ」

「なら決まりだな」

「はっ?! し、しまったずら! これが噂の勇猛尋問ってやつずら?!」

「誘導な」


 だが、多少強引なりとも二人のために金を使った方が良いと認めさせる事が出来たようだ。


「本当に良いんですか? トレイルさん」

「店長、オラ達に気を遣ってたりしないかや?」

「むしろ早めに二人にもっと戦力になって欲しいからな。嫌だと言っても無理矢理買わせたいくらいだ」


 そう言うと、二人ともぎこちなく頷いた。


「そういう事でしたら」

「オラ頑張るだ! ナズさ、せっこが出るだよ!」

「う、うん。頑張ろう」

「よし。それじゃあ二人とも。今から道具屋に行くぞ。自分達がやってる業務に必要だと思う物を見繕ってくれ」

「はい」

「んだ」



 いくつかの店を回り、ナズの調合用の器具や薬草箱、より保存性に優れたビン。そしてターナ用のナイフやトンカチ、ハサミ、乾燥用のネットなどを買い揃えた。


「新しいポーションや、保存方法を覚えたらまた必要になる道具も出てくるだろう。その時はまた買いに来よう」

「はい。あの、トレイルさん。荷物は私が持ちます」

「んだ。店長が一番多いずら」

「思ったよりたくさん買ったからな。三人で手分けして持って帰ろう」

「はいっ」

「んだ!」


 三人で並んで買い物袋を抱え、家に帰る。

 その時間が、なんだかとてもありがたい物のように感じられた。



 家に戻ると、フランが酒場で大健闘中だった。


「ほっ、はっ、そいっ!」


 魔法もフルに駆使して、物をあっちへこっちへと配置していき、うんうん唸っていた。


「よ、女将。理想の宿になりますかな?」

「あ、お帰り~。見て見て、ほら! このカーテンの色なら、花瓶は水色が良いと思わない?」

「おいおい。俺にはそんなセンス皆無なの知ってるだろ?」

「トレイルはどっちがいい?」

「どっちって言われてもな······うーん。こっちの花瓶じゃないか?」

「やっぱりっ? そうだよね~!」


 小物をガタゴトと置き換えていくフラン。


「ん~。やっぱこっち! あ、やっぱこっち! ややっ、こっちの方がっ!」


 フランのこだわりは昼飯まで続いた。





「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

「気をつけてずら~」


 午後。


 昼飯の後、俺とフランは出掛け、北門へと向かった。


「エクアル村、どうなったかな?」

「多分、改善されたとは思うが。まあ、念のために武器の点検もしたし、ナズ達にも遅くなったら先に飯食っておけって言ったしな。もしまだモンスターが湧くようなら一汗かくか」

「うんっ」


 俺らはエクアル村に報酬を受け取りに行くために、郵便馬車のある北門へと向かった。



 北門に到着し、辺りを見る。

 郵便の定期馬車がいくつか待機しており、その中にこの間の御者を見つけたので声を掛ける。

 向こうも俺らの事を覚えていた。


「おっ、あんたらはこの間の」

「こんにちはー」

「またエクアル村に行きたいんだが、乗せて貰えるか?」

「おう、もちろんさ。ちょうど今から出るとこさ」


 気さくな御者の好意により、俺らはまたゆっくりと村を目指した。


「そうそう、お二人さん、知ってるかい? なんでも最近エクアル村のモンスターがピタリと出なくなったそうだぞ」


 手綱を呑気にとっていた御者が話し掛けてくる。


「なんでも凄腕の二人組が現れたそうでな。なんだったかな、スゲエー屋とかいう変な職業らしくてさあ」

「スレイヤー屋ですっ」


 フランが訂正を入れる。そして、むんっとたわわな胸を張った。


「ふっふーん。実はそのスレイヤー屋が私達なんです!」

「なんだって!? そりゃ本当かい?」

「はい! エクアル村のモンスター達をやっつけたのは私達なんです!」

「確かに、あんたらを送った後にエクアル村の噂を聞いたからな。まさかそんな凄い二人だったなんて。なんだっけか、スゲーイエーイ屋?」

「スレイヤー! ほら、トレイルも宣伝して!」


 フランの胸に気を取られていたが、確かに宣伝のチャンスだった。


「そういう訳でな。何かモンスターで困った事があったら俺らスレイヤー屋に依頼してくれ。有料だが、問題解決に貢献出来ると思う」

「分かったよ。俺はあんまし金なんか無いけど、どうしてもって時は相談させて貰うよ。スベッター屋だったか?」

「ス・レ・イ・ヤー!」


 フランの声が草原に木霊した。



「じゃあな、頑張れよー。ス、ス、スレイヤー!」


 やっと最後に正しい名前を言ってから、御者の馬車は遠ざかっていった。


 俺とフランはエクアル村の入り口前にて、その去りゆく馬車を見送った。


お疲れ様です。次話に続きます。

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