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「どういう意味だ?」
思わずペストの胸ぐらを掴んだ。
「おい、今のはどういう意味だ」
「な、何をするっ! き、貴様、上官に向かって······」
「トレイルはもう軍人じゃないよー」
シヴィが感情のこもってない声で言う。
「それより。あたしも気になるね今の言葉。なんだかさ、あんたこの状況を打ち合わせていたみたいに聞こえたけど?」
「うっ······!? し、知らんっ! 俺は何も知らないっ······」
「隠しても無駄だよー。スティングがね、今回の件、あんたのせいだって言ってたよ」
「なっ!? ふ、ふざけるなっ! この状況はあいつのせいに決まってるだろ!! 第一、俺はちゃんと打ち合わせ通りに──」
ハッと口に手を当てるペスト。
「はい、いっちょ上がり。簡単にかかったね」
「ち、違うっ、今のは······」
「······」
ここに来るまでにたくさんの死を見てきた。
かつて仲間だった兵士も。民間人も。まだ俺の半分も生きてない命も。
みんな死んでた。
「トレイル?」
「······」
「は、離せっ! 俺は悪くないっ、俺は──」
「っ!」
──バキッ──
「ほんげええっ!?」
一瞬、頭が真っ白になり、気が付いた時はペストを思いっきりぶん殴っていた。
拳に嫌な感触が残る。
「は、はガァっ······ふぉ、ふぉげぇ······」
「おい」
「ひ、ひいっ! や、止めてっ、た、助けてくれ! お、俺は奴に付き合わさせられただけなんだっ······あいつがモンスターで町を襲うから、それを俺らで倒すって······」
「お前は知ってたんだな? こうなる事を」
「ひいっ! お、俺は反対したんだ! そんなヤバい事は止めろって! け、けど、あいつがっ······」
「······スティングはどうやってこんな事を出来たんだ?」
「く、黒魔術を使うとか言ってた······けど、それ以上の事は聞いてないっ······あ、あいつは打ち合わせ通りじゃないとか、何とかほざいて一人で時計塔の方へ逃げて行ったんだ!」
「······パーヴォンというエルフの事は本当に知らないんだな?」
「そ、そう言えば、そんな奴がスティングと揉めて、同じ方向に行ってたような······」
ペストはこちらの知りたい事を大体喋った。
胸ぐらから手を放すと、大袈裟にのたうち回り始めた。
「は、歯があ~っ! あ、顎が砕けた~! 衛生兵~!」
俺とシヴィはそんな愚か者にタメ息をつきながら、その場を後にした。
「この後どうする?」
「俺はパーヴォンを探しに行く。けど、ここの戦力は手薄だ。さっきのデスウルフどもがまた攻めてきたら崩壊するだろう。シヴィ、ここに残ってやってくれないか? ただし、自分の安全最優先でな」
「一人で平気?」
持ってきた増強剤ポーションを飲み干し、頷いておく。
「多分な。すぐ戻る」
「分かった。気をつけてね」
連戦によって体力は削られてるが、いざとなれば逃げも隠れもする。
「フラン達と合流したら守りに回ってくれ。無理はするなよ」
「あんたもね」
その場をシヴィに任せて、時計塔へと向かう。町の中心部に近い位置に立っている建物だ。
人気の無い通りを慎重に進んでいく。たまにモンスターの群れが近くを通りかかるが、今はパーヴォンの捜索が優先なので無視しながら進む。
デスウルフもまだ何頭か徘徊しているはずなので、十分に警戒する。
やがて、時計塔の時刻が分刻みまでハッキリと見える程まで接近出来た。
「誰も居ないようだが······」
辺りは死人や死骸が時たま落ちてるくらい。
『ガルルルルッ······』
「!!」
前方に立っている物置小屋。死角になっているその裏側から恐ろしい唸り声が聞こえた。
『フリーズショット!』
次いで誰かの魔法詠唱の声。響く戦闘音。
剣を抜き払ってすぐに向かってみると、そこには──
『ガウウウッ』
「くっ!」
「ひ、ひいぃ!」
俊敏に跳ね回り、牙をちらつかせるデスウルフ。そして、その猛攻から土の障壁を出して防ぐ魔法使い。その足下で腰を抜かしている男。
それは探し人のパーヴォンと、スティングであった。
『ガウアッ』
「フレイムショット!」
パーヴォンの杖から火の玉が放たれる。それはウルフを牽制したが、決定だにならない。
「くっ、このままでは······」
「な、何をしているんだっ、は、早くそいつを殺してくれ!」
スティングは股間を濡らしたまま戦おうともしない。
再び唸りを上げるデスウルフの爪と牙。
「せっ!」
しかし、目の前の二人に集中していて、死角になる背中ががら空きだ。
風の刃を背筋に真っ直ぐ通すと、ウルフの体は大きく跳ねて、すぐに血の海に沈んだ。
剣に着いた血を払い、辺りに注意を配る。他に気配は無いようだ。
「ふう······」
「き、君は冒険者ギルドの······! そうか、会長の依頼を受けてくれたのか!」
「ああ、あんたを探してくれって言われてな」
「そうか······うっ」
その場にうずくまるパーヴォン。肩に血が滲んでいた。
「どうした、やられたのか?」
「ああ。大丈夫、浅い」
とは言え、表情からも疲労が伺える。
俺は持ってきておいた回復ポーションの栓を抜いて、パーヴォンの傷口にかけていった。
「ウチの店で作ってるポーションだ。効き目は保証する」
「すまない······おぉ、痛みが引いていく」
痛々しく肉が露出していた傷が小さくなり、早くも薄い膜が張り始める。
「ありがとう、助かったよ。すまない、高級なポーションを······」
「気にしないでくれ。ウチにはこれを普通の素材で作る優秀なメンバーが居るんでな」
「き、きき、き、貴様っ······」
横で尻餅をついていたスティングが耳障りな声を上げる。
「な、なぜ貴様がこんな所に! き、貴様はパデスに居るはずじゃ······」
「······俺の事はどうでもいい」
こいつには問いたださなきゃならん事がある。
「お前、この騒ぎに関わりがあるようだな?」
「な、何っ?!」
「ペストの奴が何もかも吐いたぞ。この騒ぎはお前が仕組んだものだって」
「なっ! あ、あのクズがああ!! う、裏切りやがったなあああ!」
発狂したように叫ぶスティング。
「クソっ、クソっ、クソがあああ!」
「それは本当かい?」
唖然とするパーヴォンに頷く。
「ああ。信じられん話だが、事実だそうだ」
「もし、そうなら······どんな刑罰を受けようとも償えないだろう。なんと愚かな······」
「だ、黙れええっ! 僕じゃない! 僕はここまでやれなんて言ってないんだ!」
スティングが立ち上がって逆上する。
「あいつが悪いんだ! あの魔道士の男が! あいつが僕の依頼以上の事を──」
『お気に召しませんでしたかな?』
「!!」
そこへ。
誰かの声が響いた。
お疲れ様です。次話に続きます。




