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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
134/153

UNKNOWN・ズキナ・超越する力

属性を超越する技―――

未知の技を相手に苦戦したとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 白桜(はくら)仁王(におう)の試合を、聖鏡(せいきょう)高校柔道部の面々は神妙な面持ちで見守っていた。

 監督の金田一(きんだいち)を中心に、主将の狐塚(こづか)、そして団体戦レギュラー候補の天方(あまかた)罪炎(ざいえん)が肩を並べる。

 そのすぐ傍らでは、マネージャーの秋沢(あきざわ)姫浦(ひめうら)がハンドカメラを回し、異端のの強敵である蛇島(へびしま)の動きを、一瞬も逃すまいと記録していた。

 時折、金田一が目を細め、低く唸る。

 その表情(つら)には、黒衣の柔道家をいかに攻略するか――

 その答えを探しあぐねる指導者の苦悩がにじんでいた。


「……五分五分の試合展開じゃな」


「そうですなぁ。ま、こっちは2人おるんやし、押し切れんのが不思議(あやし)なくらいやけど」


「そうじゃのう……あの蛇島って男、やはり只者ではないのう……それとだ、狐塚。あの蛇島って男が使う柔皇の技なんじゃが……」


「……ウチらのとは、なんか違いますわな」


「やっぱりそう思うよなぁ? 八雲刈(やくもが)り、珠玉廻(しゅぎょくまわ)し、泡包(あわづつ)み、絶海(ぜっかい)波浪(はろう)さばき、静謐(せいひつ)の構え……どれも水属性の技じゃが、どうにも同じ系統の匂いがせんのじゃ」


「別物っちゅうことですか?……それなら、ENo(エクシードナンバー)やろか?」


「いや……進化したというより、根っこが違うように見える。どうじゃ、天方に……あぁー……罪炎は? なにか気づいたことはあるかのう?」


「ん~? 技の練度が違うとかじゃない~? 誤差レベルじゃなくて異次元(レべチ)で練度が高いとか~」


「……そうですね。俺達がまだ理解(わか)っていない、技の核みたいなものを、あいつらは掴んでるのかもしれないですね……」


「核か……雅趣(ウケ)る推察じゃの。なんにせよ――この均衡が崩れれば、劣勢になるのはこっちじゃ。白桜、仁王……気を抜くんじゃないぞ……!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぜぇ……ぜぇ……ゲホっ!! ゲホっ!! ……おえっ!!」


「はぁ……はぁ……!! 白桜、まだいけるな……!?」


「うん、なんとかね……!!」


 敵の持久力に難があることを、そこはかとなく見抜いた白桜の策略のもと、呼吸1つの差で揺れる攻防を繰り広げていた3人。

 気づけば試合時間は、まもなく3分を超えようとしている。

 フルマラソンを全力疾走するような苛烈な戦いに、3人の肉体はすでに限界へと追い詰められていた。

 細胞は酸素を求めて悲鳴を上げ、意識は霞の奥に沈みかけている。

 限界点(おたまりこぼし)で動きが鈍った蛇島を仕留めるため、白桜と仁王は息を合わせて猛攻を仕掛けた!!

 無数の技が交錯する中、蛇島は最小限の動きでそれらをいなし、なおも仁王の道着(まとい)を離さない。

 白桜は周囲から隙を探るが、放つ技はすべて読み切られ、手札はすでに尽きかけていた。


「……くぅ」


(ねぇ、全然投げれる気がしないんだけど!? どうなってんのこの人の対応力!?)


「ぜぇ……ぜぇ……ダメ、だな。この人数差は、流石に……ちっ!! 仕方が、ないか……!! ……No.1■■―――」


「ん!? 仁王先輩、なんかくるよ!!」


「ぜぇ……ぜぇ……理解(わか)ってるよ!! ちっ!!」


(体格は俺より小せぇのに……なんで、抑え込まれてんだよ!? 道着(まとい)の持ち方か? ポジション取りか? ……いや、技量が違いすぎる!! クソ、こんなんじゃ後で兄貴にごちゃごちゃ言われちまう……!!)


 何かを仕掛けようとする蛇島の圧に、白桜と仁王の体がわずかに強張る。

 次の瞬間、場の空気がひときわ澄み渡り――大気中に無数の水塊が、まるで意志を持つかのように姿を現した!!

 それらは重力を無視(シカト)するようにふわりと浮かび、青白い光を帯びながら、静かに宙を漂う。

 やがて一斉に落下し、床を叩いた水が四方へと波紋を広げていく。

 膝下まで水位が迫るその光景は、潮が満ちていく海岸めいており、会場は一瞬にして姿を変えていった!!

 なんたる変貌、吃驚仰天(おったまげ)!!

 観客(パンピー)達は突如水に包まれた足元に悲鳴を上げ、足を取られてよろめく。

 そして白桜と仁王もまた、まとわりつく水の抵抗に、動きを剥奪(がめ)られ牛歩(とろ)くなる!!

 一歩踏み出すたびに水しぶきが弾け、冷たい滴が頬を打つ。

 その感触が、これは幻ではなく現実……

 蛇島が作り出した水の領域なのだと、白桜の本能に告げていた。


「はぁ、え!? なにこれ!? 仁王先輩!!」


「いや、俺が理解(わか)るわけねぇだろが!?」


「ぜぇ……ゲホっ、おえぇぇぇぇ……!! ……流石に、この技、は、きついなぁ……!!」


「この、お前!! この技は一体……」


「ぜぇ……教える、わけ……ないだ、ろ!? とっておきの技、なんだから、なぁ!? ぜぇ……まだ、未完成、だけど……!!」


 一変した試合環境に、仁王はたじろいだ。

 誰も見たことのない未知(ずきな)の技。

 それが放たれた瞬間、3分間保たれていた均衡は音を立てて崩れ始めた!!

 水の抵抗など存在しないかのように、蛇島の足取りは滑らかに流れ、仁王の足を刈り取る軌跡を描く。

 浅瀬に足を取られたままでは埒が明かないと判断した仁王は、足元に岩塊を生じさせるNo.27星礫(ほしつぶて)を発動し、即席の足場を作り出した!!

 だがその背後――マンション4階にも達するほどの巨大な水壁が、轟音を立てて迫ってくる!!

 蛇島の姿は、いつの間にか水面から掻き消えていた。

 気づけば周囲は、月夜(じおでら)が照らすウユニ湖めいた幻想的な光景へと変貌し、桜がひらひらと舞い踊っている。

 仁王は悟る。

 いま自分の首を狙うのは――水属性最強の技であると!!


「っ!! この技……桜花水月(おうかすいげつ)か!?」


「ぜぇ……ぜぇ……気が付くの……遅すぎ、なんだよ!!」


「ちっ!! ……あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!?」


 幾重にも押し寄せる津波に揉み潰され、仁王は体勢を大きく崩した。

 荒れ狂う波間を裂くように姿を現した蛇島が、再び仁王の道着(まとい)を強く掴み取る。

 左肩を先行させて体を左へとひねり、その小柄な背に仁王の巨体を背負い上げた。

 背負い投げの強化技。

 高校柔道において、蒼海(そうかい)青桐(あおぎり)を除けば使い手がいないはずだった、水属性最強の技―――No.91 桜花水月。

 仁王の身体は鮮やかな放物線を描き、静まり返った水平線へと叩きつけられていく。

 沈黙(スフィンクス)を裂く衝撃音。

 水面が爆ぜ、戦場に白い飛沫が咲き乱れた!!


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


現実(マジ)……かぁ!?」


「ぜぇ……ゲホゲホっ!! こ、これで……あと……」


「……雹針(ひょうしん)っ!!」


「っ!?」


 仁王が畳に叩きつけられ、審判が蛇島の勝利を示したその刹那。

 間を置かず、白桜は細く鋭い氷柱めいた数本の針を、蛇島の左腕の関節めがけて突き立てた!!

 仲間の敗北を無駄にせず、勝利への布石を静かに積み上げていく。

 その瞳は対岸(へいき)火事(しゃあ)であった!!


「……っ!! はぁ……ぜぇ……!! ちっ!! 悪童(クソガキ)が、面倒(うぜ)ぇ技を……!!」

 

「へっへ~ん!! 仁王先輩の水死体(どざえもん)は無駄にしないもんねぇ!!」


「おい!! 勝手に殺害(あやめ)てんじゃねぇぞ!? ……くっ」


(クソ……!! やられた……足場に気を取られすぎた……!! せめて1発攻撃しとけばよかったか? こんなんじゃ兄貴になんて言われるか……まだまだ、実力(ウデ)が足りねぇ……!!)


 蛇島に投げ飛ばされた仁王は、奥歯を噛み締めたまま、無情に転がる体を起こし、場外へと退場していく。

 その間、兄である仁王吽錬(におうごうれん)への劣等感が、胸の奥で鈍く疼く。

 己の無力さを噛み潰すように飲み込みながらも、彼はただ、戦場に立ち続ける後輩の背中を無言(ロム)って見つめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぜぇ……はぁ……!! あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"!!」


「しゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 試合はついに佳境へと突入していた。

 互いの仲間を失い、残されたのは1人づつの1対1(いっぴきどっこい)

 両者ともに消耗(へば)りが激しかったが、仁王と交代を重ねて戦っていた白桜に比べ、相棒を早々に欠いた蛇島は明らかに疲労(げんなり)していた。

 その(つら)色は血の気を失い青白く、顔面蒼白(うらなり)な様子は、周囲の観客(パンピー)達が息を呑むほどだった。

 何が彼の身に起きているのか――白桜には理解(わか)らない。

 だが、たとえどんな事情があろうと、戦いの手を緩めるつもりはなかった。

 白桜は容赦なく間合いを詰め、勝負を決するべく踏み込む。

 左手が蛇島の道着(まとい)を掴み取ろうと伸び、肩で荒く息を吐く蛇島は、関節の伸びきった右腕でその手を払いのけ、正面から白桜を迎え撃つ!!

 次の瞬間、彼の全身から放たれた殺気が場内を震わせた―――


「これ、でっ!! 終わりだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"!!」


「……あ」


「あ"ぁ"?」


「もらうね、その勢い……!!」


 常人ならば一歩退くであろう場面。

 白桜はあえて、真正面へと踏み込んだのだった!!

 蛇島の右足が白桜の足を刈り取ろうとした瞬間、白桜は体と右足をわずかに引き、攻撃の間合いを外す。

 失中(すか)し空を切った蛇島の右足が水面を裂き、白い飛沫を散らした!!

 その軌跡をなぞるように、白桜の左足が滑らかに動く。

 返し技―――燕返しによって、蛇島の体勢が一瞬で崩れ、水面を割って背中から沈んでいったのだった!!


「なぁ……にっ!?」


「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"!!」

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