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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
132/154

TAG・ニコイチ・タッグ柔道

2対2の変則マッチ―――

予想だにしない戦いに巻き込まれたとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 前人未踏とも言える戦いの詳細が、ざわめく選手達の前で、運営スタッフのマイク越しに告げられていく。

 赤い畳の内側では、2組が同時に相対するタッグ戦が繰り広げられるという。

 紙片一枚にぎっしりと書き込まれた文字を読み上げるスタッフの声は張り詰め、特殊なレギュレーションの全貌が一つひとつ明らかになっていった。


『これから行われるタッグ柔道。試合時間は通常通り4分で行われます。2組の選手が同時に戦っている最中、片方が場外などで静止(まて)となった場合は、その組だけでなく、場内で戦う相手方にも同時に静止がかかります。勝利条件は、敵2人を相手に一本を奪うこと。試合中は対戦相手の入れ替えが可能ですので、呼吸を合わせ、狙う相手を的確に見極めてください。その他の反則事項については、通常の個人戦規定と―――』


「タッグ柔道……? 2対2で戦う……?」


「えぇ~何それ~? ……仁王(におう)先輩、やったことある?」


「あるわけねぇだろ……あぁー説明聞いた感じだと、基本は普通の柔道と変わんねぇな。違いは―――」


「試合中に戦う相手を選べるってこと……かな?」


「だな……さっきの説明を聞いた限りだと、戦っている最中に戦う相手を入れ替えるってことも可能か。片方が戦っている最中に、横やり入れて集中砲火みたいなこともOKになる……のか? こればっかしは実戦で試すしかねぇわな。ん? ……んだよ白桜(はくら)


「ぼ、僕の足!! 引っ張ったら許さないんだからね!!」


「なに無駄に煽ってんだよ!? 今それどころじゃねぇだろ!?」


 首を絞められていながらも、白桜はまるで堪えた様子を見せず、むしろ元気いっぱいに仁王へと煽りの言葉を投げかけていた。

 それは、これから肩を並べて戦う相棒に向けた、彼なりの激励でもあったのだろう。

 肉親と引き離された痛みを抱える仁王も、今では雑念を振り払い、試合だけに意識を研ぎ澄ませている。

 2人は幾度も作戦を練り直し、互いの呼吸を合わせていった。

 そして――試合開始まで残された30分は瞬く間に過ぎ去り、白桜と仁王は赤い畳の外に並び立ち、審判の合図を静かに待つのだった。


「いよいよだね」


「おう。あぁー……なぁ白桜」


「ん? なに~?」


「膝、大丈夫なのか? あんま無理すんなよ。本番は夏なんだからな」


「うん。言われなくても理解(わか)ってるもん!! 気遣い感謝(あざ~す)!!」


「たっく……現実(マジ)理解(わか)ってんだろうなぁ?」


「両者、これより試合を始めます!! 指定の位置へ!!」


「っ!! っしゃ!! 行くぞ白桜ぁ!!」


了解(うぃ~す)!!」


 先輩らしく後輩の体調を気遣いながらも、気恥ずかしげに左手で頭をかく仁王。

 審判の指示に従い、2人は静かに場内へと歩を進めた。

 1回戦の相手は名も知れぬ凡夫(こっぱ)の2組。

 ランク100位以内に名を連ねる白桜と仁王からすれば、取るに足らぬ相手に思える。

 だが、この特殊レギュレーション下での戦いは誰にとっても未知の領域。

 どこに綻びが生まれるかは予測できない。

 審判の掛け声が響いた瞬間、試合は幕を開け、タイマーのカウントが刻みを始めた!!


開始(はじめ)っ!!」


「しゃぁ"ぁ"!!」


「へっへん~!! こぉ"ぉ"ぉ"い!!」

 

「むっはっはぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「ひゃっは~いったるぜぇ"ぇ"ぇ"!!」


 互いに狙いを定め、相手の道着(まとい)へと手を伸ばす。

 白桜に迫ったのは、一回り以上も体格で勝る長軀(おつきさまの)偉材(あぶらさし)な男。

 事前に練られた作戦があるのだろう、その足取りには一切の迷いがない。

 巨体を揺るがぬ勢いで押し進め、獲物を仕留めんと突き進んで来たのだった!!


「おぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


(作戦通りに掴み取ったぞぉ!! こいつは白龍と呼ばれている男……技術で勝てるわけがねぇから、体格差を押し付けていくぜぇ!! すりつぶ―――)


空蝉(うつせみ)


「すぅ……んん?」


 左足で畳を強く蹴り込んだ瞬間、白桜の身体は翠色の旋風に包まれた。

 風は優しくも力強く渦を巻き、その小柄な輪郭を塗り替えていく。

 次の刹那――白桜の姿は消え、代わりに同等の巨躯を誇る仁王が立ちはだかっていた!!

 先ほどまで白桜を狙っていた男は、気づけば仁王と相対することを強いられていたのだ!!


「ぬ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!?」


(あの白桜って野郎……!! 仁王と入れ替わりやがった……!!)


 戦う相手を一瞬で入れ替えた白桜。

 右利きの巨漢の男は、ほとんど体格差のない左利き(ひだりぎっちょ)の仁王と組み合い、互いの利き腕が交差する、喧嘩四つの体勢に入った!!

 体格差という武器を失った巨漢は、目前のトップランカーを押し切れるはずもない。

 力比べの末、じりじりと場外へと追い詰められていく!!


「ぐぅ……あぁ"ぁ"!! クソがぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「ふぅー……No.62!!」


 全身に力を漲らせた仁王。

 周囲から呼び寄せた無数の岩塊が巨漢の体を覆い、その動きを封じ込める。

 仁王は目前の男に背を向けると、身体を右へとモーターめいて回転させた!!

 左手は腰を抱え、右手で強く引き寄せ、自身の腰へと乗せ上げる―――釣腰をベースに柔皇が練り上げた必殺の一投!!

 山属性の選手が得意とする大技が、畳を強く軋ませながら炸裂しようとしていたのだ!!


破城釣腰(はじょうつりごし)!! やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

「一本ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


 審判の右手が天を突き上げる!!

 開始直後、仁王が鮮烈な一本勝ちを決めてみせた!!

 本来ならここで静止の声が響くところだが、今回はタッグ柔道という特別ルール。

 2人を投げ倒すまで勝負は終わらず、時計の針は止まることなく進み続ける。

 その頃、白桜の前に立つ男は、仲間(つれ)が瞬時に倒されたことで動揺を隠せずにいた。

 事前に練った作戦は失策(おしゃか)となり、闘志の炎は消えかけていたのだ。


「あ……あぁ……」


(な、なにやってんだよアイツ!? お、俺ひとりで白桜なんか投げられるわけねぇだろ!? ど、どどどどうすりゃいいんだ!? と、とりあえず様子見して……)


「おぁっ!? な、なんだぁ"!?」


(背中に……岩ぁ!? ――まさか、No.27の星礫(ほしつぶて)か!? ってことは……仁王の技ぁ!?)


 目の前の相手に意識を集中していた男は、地面から突き上がるタケノコめいた岩の障害物に背中を押され、体勢を大きく崩した!!

 遠くから仁王の援護を受けた白桜は、その意図を瞬時に把握()し、体を右へ旋回させながら背中に相手を乗せ、一気に背負い投げを仕掛ける。

 無防備となった男の体は、なす術もなく宙を舞った―――!!

 数的不利に追い込まれた途端、集中砲火を浴びていく男の散り様に、観客(パンピー)席からは憐れみの視線が注がれていた。


「うっわ……あの凡夫(こっぱ)2人、白桜と仁王に袋叩(ボコ)られてらぁ……」


「無理もねぇって。あの2人トップランカーだぞ? 相手にならねぇって、普通」


「だな。つ~か白桜と仁王ってやつ、タッグ柔道は今日が初めてなのに、連携滑らか過ぎじゃね? 練習してたのかな?」


「いやいや、そりゃねぇよ。選手がタッグ柔道を知らされたの、今日だぞ? 全部即興でやったんだろ。ほら、聖鏡(せいきょう)高校って脳内CPU(おつむ)の回転が速ぇ奴が多いだろ。瞬時に判断して連携してんだろ、きっと」


「く~……名門校の選手は格が違うねぇ~……!? こりゃこのブロックの優勝はあの2人で……ん!? おい、あの選手見てみろ!!」


「んぁ!? おいおい!? あの道着(まとい)の色……!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 白桜と仁王の快進撃は止まることを知らず、初めてのレギュレーションにもかかわらず、息を合わせるように次々と駒を進めていく。

 日頃から脳にも汗をかくことを怠らない彼らにとって、多少の試合形式の変化など思考を揺るがす要因にはならない。

 むしろ、その変化を逆手に取り、自らの柔道へと即座に昇華していく学習能力の高さを、いかんなく発揮していた。


「ふ~……次でこのブロックの決勝か……白桜、体は大丈夫か?」


「うん、今のところは問題ないよ。ねぇねぇ~話が変わるけど仁王先輩~? このタッグ柔道ってレギュレーションって、なんか普通の個人戦より戦いやすくない?」


同意(それな)。相手の意表を突きやすいしな。基本は1対1の展開になっけど、番外戦術で妨害できるし、危険(やべ)ぇ時には助けに入れる……工夫次第でどうにでも出来そうだな」


「だねぇ~」


「ま、そういうわけで、いい頭の体操になったところで、気を引き締めて決勝戦に――あぁ!? おい白桜!! あの道着(まとい)の色……」


「ん~? ……げぇ!? なんであの人、ここにいるのさ!?」


 不意の来客、吃驚仰天(おったまげ)!!

 白桜と仁王、周囲の観客(パンピー)までもが、その少年の道着(まとい)の色に、視線を釘付けにされてしまっていた。

 黒い柔道着(まとい)―――

 おかっぱ頭の男は、青汁の入ったプラスチックのコップを手に、ストロー越しに緑の液体を啜っていた。

 鬱陶しげに周囲を睥睨(がんづけ)ており、時折ストローを強く噛みしめる仕草は、不機嫌(おかんむり)さを隠そうともしない。

 その圧に、弱腰(ちき)っている柔道家達は思わず息を呑む。

 彼の名は蛇島(へびしま)

 Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)と名乗る反逆の魂を宿し柔道家の集団が、刺客として北海道の地に姿を現したのだった!!


「ちゅー……っぷはぁ!! ……ちっ!! ごちゃごちゃ観客(パンピー)がうるさいなぁ……ぼちぼち黙らせっか」

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