「留守番」
城の広間。
東の戦線へ兵を出すことが決まり、虎次郎は出立の準備をしていた。
「虎次郎」
「はい、姫様」
「虎次郎は行くのか?」
「もちろんでございます」
「では私も行く」
「姫様は九の国にお残りください」
「なぜじゃ?」
「当主だからです」
「私が一番偉いのに」
「だからでございます」
「偉い者ほど戦に行くものではないのか?」
「そうとは限りません」
「では、誰が行く?」
「私たち家臣です」
「ずるいのう」
「何がでございますか?」
「戦には行けるのに、姫は留守番じゃ」
「留守番も立派なお仕事でございます」
「何をすればよい?」
「政務を」
「難しい」
「書状を読んでいただいたり」
「もっと難しい」
「判を押していただいたり」
「それならできる」
「では、お願いいたします」
「虎次郎」
「はい」
「これで私も戦に行ったことにならぬか?」
「なりません」
「判を押すだけじゃぞ?」
「戦場には一歩も近づいておりません」
「むう」
「それに、姫様が九の国を守ってくださらなければ困ります」
「……私がいないと困るのか?」
「もちろんでございます」
「そうか」
「はい」
「では、留守番してやろう」
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい?」
「帰ってきたら褒めてくれ」
「姫様が戦に行かれなかったことを、でございますか?」
「うむ」
「……もちろんでございます」
「約束じゃぞ」
「承知いたしました」
「よし。では安心して行ってこい、虎次郎」
「はい、姫様」
「ちゃんと帰ってくるのじゃぞ」
「……はい」
「約束じゃ」
「はい。必ず」




