「亡命」
「虎次郎」
「はい」
「四の国の武将が、陸の国へ行ったそうじゃな」
「はい。亡命したとのことです」
「なぜじゃ?」
「四の国の当主に、伊の関所が落とされる前に意見を申し上げたそうです」
「それで?」
「むやみに攻めるべきではないと進言していたそうです」
「まともじゃな」
「はい」
「当主は何と?」
「『今攻めずしていつ攻めるのじゃ』と」
「……」
「武将が『敵に攻め込まれます』と申し上げると」
「うむ」
「『攻め込まれるのは、お前の采配が悪いからだ』と」
「それは困るのう」
「さらに、守りを固めるべきだと申し上げたところ」
「何と?」
「『お前は臆病者と呼ぶ』と」
「臆病者と?」
「そのように」
「……」
「結果は?」
「伊の関所は東の国が占領する結果に」
「その後の当主は何と?」
「伊の関所が敵の手に落ちた責任をその武将のせいに…」
「それで陸の国へ?」
「はい」
「意見を聞き入れられず、責任だけ取らされたという事か」
「そういうことになります」
「変な話じゃな」
「はい」
「虎次郎なら、そんな当主に何と言う?」
「私ですか?」
「うむ」
「……まず、話を最後まで聞いていただきたいと」
「それでも聞かなかったら?」
「困ります」
「それでも家臣を続ける?」
「姫様なら、少しは話を聞いてくださいますので」
「少し?」
「かなり、でございます」
「そうか」
「はい」
「私はちゃんと聞いておるぞ」
「はい」
「たまに忘れるが」
「そこが少々問題でございます」
「でも、意見を言うことは大事じゃろ?」
「もちろんです」
「なら、言える国のほうがよいな」
「……そう思います」
「その武将も、そう思ったのじゃろうな」
「はい」
「陸の国で、ちゃんと話を聞いてもらえるとよいのう」
「そうですね」
「でも」
「はい?」
「四の国は、また一人減ったのじゃな」
「はい」
「人が減る国と、人が増える国か」
「……」
「なんだか、国の勢いというのは、そういうところにも出るのかもしれんな」
「姫様」
「何じゃ?」
「たまに、妙に鋭いことをおっしゃいますね」
「たまにとは何じゃ」
「失礼いたしました」
「まったく」
「はい」
「ところで、その武将は強いのか?」
「かなりの人物だそうです」
「では、もったいないな」
「何がでございます?」
「そんな人まで手放してしまうのは」
「……左様でございますね」
「人は大事にせんとな」
「はい」
「私も気をつけよう」
「それはありがたいお言葉です」
「虎次郎」
「はい」
「お主も、何かあったら遠慮なく言うのじゃぞ」
「……」
「どうした?」
「いえ」
「何じゃ?」
「今の言葉だけで、私は十分仕えていけそうでございます」
「そうか」
「はい」
「では、何かあったら言うのじゃ」
「承知いたしました」
「ただし」
「はい?」
「団子を食べたいとかは駄目じゃぞ」
「……それは意見ではなく願望でございます」
「同じではないのか?」
「違います」




