「中の国からの書状」
また書状が届いた。
きらりが封を眺める。
「虎次郎」
「はい」
「また中の国か?」
「はい」
「何と書いてある?」
「援軍をもっと出せ、と」
「お願いでは?」
「文面だけ見れば、お願いでございます」
「だけ?」
「最後に『速やかに』とあります」
「……」
「それから『できる限り多く』とも」
「お願いではないな」
「命令に近いかと」
きらりが書状を裏返す。
「送り主は?」
「中の国の国主です」
「本人から?」
「はい」
「ずいぶん偉そうじゃな」
「国主ですから」
「私も国主じゃ」
「はい」
「私はこんな書き方はせんぞ」
「存じております」
「それで、何人出せと言っておる?」
「五百ほど」
「五百?」
「はい」
「前は三百じゃったな」
「はい」
「増えたな」
「向こうの要求だけは、よく増えております」
「中の国は兵が多いのじゃろ?」
「九の国よりはるかに多いです」
「では、自分で出せばよい」
「……」
「虎次郎?」
「私もそう思います」
「何で黙った?」
「私が言うと、悪口になりそうでしたので」
「私は悪口を言ってよいのか?」
「姫様もほどほどになさってください」
「では、考えよう」
「はい」
「五百は無理じゃ」
「そうですね」
「三百なら?」
「出せなくはありません」
「でも、こちらの兵が減る」
「はい」
「前線は東へ動いている」
「はい」
「四の国も苦しい」
「はい」
きらりが書状を見る。
「……」
「姫様?」
「この人は、うちの兵が戦っていることを知っておるのか?」
「知っているはずです」
「帰ってくるまでに時間がかかることも?」
「もちろん」
「それでも、もっと出せと言っておるのか」
「はい」
「……」
きらりは書状を折りたたむ。
「ずいぶん簡単に言うのう」
「そうですね」
「『もっと出せ』と言うだけなら、私にもできる」
「何とおっしゃいます?」
「『もっと兵を出せ』」
「……」
「ほら」
「簡単でございますね」
「うむ」
「では、姫様も中の国の国主と同じでございます」
「それは嫌じゃ」
「でしょうね」
きらりは少し考える。
「虎次郎」
「はい」
「中の国は、九の国を何だと思っておるのじゃ?」
「同盟国……ではないでしょうか」
「同盟国なら、もう少し頼み方があるじゃろ」
「はい」
「困っているから助けてほしい、と言えばよい」
「はい」
「そうしたら、こちらも考える」
「その通りでございます」
「なのに、もっと出せ、と言われると」
「はい」
「出したくなくなる」
虎次郎が少しだけ笑う。
「姫様らしいお考えです」
「何じゃ?」
「人に頼むなら、まず自分が相手を頼っていることを伝えるべきだ、ということでしょう」
「難しいことは分からん」
「……」
「ただ」
「はい」
「兵を出すのは、兵を一つ置いてくるのとは違う」
「……はい」
「ちゃんと帰ってきてほしい者を出すのじゃ」
「左様でございます」
「だから、簡単に『もっと出せ』とは言われたくない」
虎次郎は静かに頭を下げる。
「承知いたしました」
「返事はどうする?」
「いかがいたしましょう?」
きらりは少し考えてから、
「三百なら出す」
「はい」
「ただし」
「はい?」
「『もっと出せ』と言われたからではない」
「では?」
「困っているなら、助ける」
虎次郎が微笑む。
「……はい」
「それから」
「何でしょう?」
「返事に一つ付け足しておけ」
「何と?」
「『こちらも兵が足りません』と」
「承知いたしました」
「それを読んだら、少しは自分で兵を出す気になるじゃろ」
「そうなればよろしいのですが」
「ならんか?」
「中の国の国主でございますから」
「そうか」
「はい」
きらりはため息をつく。
「偉い人は大変じゃな」
「姫様も偉い人でございます」
「私はよい」
「なぜでございます?」
「虎次郎がおるから」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
「変な顔じゃぞ」
「少々、嬉しかっただけでございます」
「そうか」
「はい」
「では、返事を書いておいてくれ」
「承知いたしました」
「『三百なら出す』」
「はい」
「『五百は無理』」
「はい」
「『自分でも出せ』」
「……」
「そこは書かんでよい」
「ありがとうございます」
「でも、思っておれ」
「私もそう思っております」




