「客」
城下を眺めながら、きらりが首を傾げる。
「虎次郎」
「はい」
「あの者は誰じゃ?」
「他国から来た商人です」
「商人?」
「はい」
「何をしておる?」
「町を見ているのでしょう」
「買い物ではなく?」
「そのようです」
「観光か?」
「戦国の世に、そのような言葉は……」
「では、見学じゃな」
「そういうことにしておきましょう」
きらりは商人の姿を目で追う。
「さっきから、あちこち見ておるぞ」
「はい」
「道も見ておる」
「はい」
「店も見ておる」
「はい」
「人も見ておる」
「そのようですね」
「何をしておるのじゃ?」
「九の国がどんなところか、見ているのでしょう」
「何か珍しいものでもあるのか?」
「最近、人が増えておりますから」
「それが珍しいのか?」
「他国から見れば、そうかもしれません」
「前より人が多くなったな」
「はい」
「店も増えた」
「はい」
「道も少しきれいになった」
「はい」
「家も増やしておる」
「はい」
「九の国、前より忙しくなったな」
「そうですね」
「静かなほうがよかったか?」
「姫様はどう思われます?」
「賑やかなほうがよい」
「では、よろしいのでは?」
「うむ」
「ところで、あの商人は何を買うのじゃろう?」
「それを見に来たのではないでしょうか」
「九の国で何か買ってくれるなら嬉しいな」
「はい」
「何が売れる?」
「米、魚、木材、それに……最近は品物も増えております」
「そうか」
「では、たくさん買ってもらおう」
「はい」
「でも」
「はい?」
「高く売るなよ」
「なぜでございます?」
「一度来て、もう来たくないと思われたら困る」
「……」
「どうした?」
「いえ」
「何じゃ?」
「姫様らしいなと思いまして」
「そうか?」
「はい」
「なら、安くすればよいのか?」
「それも少し違います」
「では?」
「また来たいと思ってもらえるようにすればよいかと」
「それなら簡単じゃ」
「何かございますか?」
「美味しいものを出して、ちゃんと挨拶すればよい」
「……」
「それだけでは足りんか?」
「いえ、十分かもしれません」
「虎次郎」
「はい」
「また客が来ておるぞ」
「はい」
「今度は何を見に来た?」
「さあ」
「観光か?」
「……」
「見学じゃな」
「そういうことにしておきましょう」
「今度は私も見学しよう」
「どちらを?」
「商人が何を見ているのか」
「姫様」
「なんじゃ?」
「それはもう、見学ではなく見張りでございます」
「そうなのか?」
「はい」
「では、こっそり見る」
「余計に怪しくなります」
「難しいのう」
「姫様には商人より、普通に声をかけていただくほうがよろしいかと」
「では、聞いてみよう」
「何をでございます?」
「九の国、どうじゃ? とな」
「……」
「駄目か?」
「いえ」
「何じゃ?」
「たぶん、それが一番よろしいかと思います」




