「空き家」
城の広間。
虎次郎が帳面をめくっている。
「虎次郎」
「はい」
「空き家がなくなった」
「それは良いことでは?」
「そうなのか?」
「人が住むようになったということでございますから」
「うむ……」
きらりが少し考える。
「困ったな」
「なぜでございます?」
「次に来た人が住めん」
「……」
「家がない」
「そうなりますね」
「どうすればよい?」
「家を建てるしかないかと」
「では、建てよう」
「承知いたしました」
「たくさん」
「どのくらいでございます?」
「たくさんじゃ」
「もう少し具体的にお願いいたします」
「十軒」
「十軒も必要ですか?」
「分からん」
「……」
「でも、人は来るのであろう?」
「最近は増えております」
「なら、家も増やしておけばよい」
「確かに」
「二十軒にしよう」
「急に倍になりましたね」
「足りなかったら困る」
「余ったらどういたします?」
「誰かが住むじゃろ」
「そうですね」
きらりは満足そうに頷く。
「では二十軒じゃ」
「はい」
「いや」
「まだございますか?」
「三十軒」
「なぜ増えたのでございます?」
「二十軒作ったところで、また人が来たら困る」
「……」
「最初から多く作っておけば安心じゃ」
「その考え方は分かりますが」
「何じゃ?」
「人が来ることを、もう当然のように考えておられますね」
きらりは少し首を傾げる。
「住みたい者がいるなら、来ればよいじゃろ」
「はい」
「来たのに住むところがないのは、かわいそうじゃ」
「……左様でございますね」
「だから家を作る」
「承知いたしました」
「それに」
「はい?」
「人が増えるのは、悪いことではない」
虎次郎が少し笑う。
「はい」
「働く者も増える」
「はい」
「店も増える」
「はい」
「畑も増える」
「はい」
「兵も増える」
「……そこまで考えておられたので?」
「今思いついた」
「そうでございましたか」
「でも、まずは家じゃ」
「はい」
「人が安心して住めるところがなければ、何も始まらん」
「その通りでございます」
虎次郎は帳面に何かを書き込む。
「では、家を三十軒」
「うむ」
「建てる場所も決めませんと」
「うむ」
「木材も必要です」
「うむ」
「職人も必要です」
「うむ」
「また仕事が増えましたね」
「そうじゃな」
「人が増えると、仕事も増えます」
「仕事が増えると?」
「また人が必要になります」
きらりが少し考える。
「では、また人を呼べばよい」
「……」
「何じゃ?」
「その繰り返しになりそうでございます」
「それなら、それでよいではないか」
「はい?」
「人が来て、仕事をして、また人が来る」
きらりは窓の外を見る。
「賑やかな国になりそうじゃ」
虎次郎は静かに頷いた。
「そうでございますね」
「虎次郎」
「はい」
「三十軒で足りるか?」
「……」
「どうじゃ?」
「四十軒にしておきましょうか」
「うむ」
「念のために」
「虎次郎も考えるようになったのう」
「姫様のおかげでございます」
「そうか」
「はい」
「では五十軒」
「増やさないでください」
「なぜじゃ?」
「念のためが止まりませんので」




