「魚」
昼下がり。
虎次郎が兵糧の帳面を見ている。
「虎次郎」
「はい」
「兵は、毎日米を食べておるのか?」
「基本的にはそうでございます」
「毎日?」
「はい」
「飽きないのか?」
「戦場では、贅沢は言えません」
「そうじゃな」
きらりが少し考える。
「でも、米ばかりでは飽きるじゃろ」
「それはそうかもしれません」
「魚は?」
「魚でございますか?」
「うむ。九の国は海がある」
「はい」
「なら、魚を食べればよい」
「新鮮なうちはよろしいのですが」
「何か問題が?」
「保存が難しゅうございます」
「すぐ食べれば?」
「戦場まで運んでいる間に悪くなります」
「……」
きらりは考え込む。
「では、保存できる魚を作ろう」
「保存できる魚……」
「うむ」
「……干物でございますか?」
「それじゃ」
「思ったより普通でございますね」
「何じゃ。もっと変なものを考えてほしかったか?」
「いえ」
「魚を何年も腐らせない方法とか」
「それは私にも分かりません」
「なら、干せばよい」
「はい」
「簡単じゃな」
「作るのは簡単でも、たくさん作るとなると話は別でございます」
「そうか?」
「魚を獲る者も必要ですし、干す場所も必要です」
「人が必要になるな」
「はい」
「魚を運ぶ者も?」
「必要です」
「兵糧を管理する者も?」
「はい」
「……」
きらりが帳面を見る。
「米も魚も、人がいないと兵のところまで届かんのじゃな」
「その通りでございます」
「なら、魚を増やすより先に、人を大事にせんとな」
虎次郎が少し驚く。
「……左様でございますね」
「兵は戦うだけでは腹は膨れん」
「はい」
「腹が減ったら力も出ん」
「はい」
「だから、ちゃんと食べさせる」
「はい」
「美味しいほうがよい」
「……そこも大事でございますね」
「大事じゃ」
きらりは少し笑う。
「虎次郎」
「はい」
「干物、食べたことあるか?」
「もちろんございます」
「美味いか?」
「美味しゅうございます」
「では決まりじゃ」
「何がでございます?」
「兵にも食べさせよう」
「承知いたしました」
「私も食べたい」
「……」
「何じゃ?」
「やはりそこに戻るのでございますね」
「兵だけ食べて私が食べないのは、おかしいじゃろ」
「それはそうでございますが」
「では、まず試しに作ろう」
「はい」
「美味しかったら兵糧にする」
「はい」
「まず私が食べる」
「……」
「虎次郎も食べる」
「はい」
「二人で美味しいと言ったら採用じゃ」
「ずいぶん身近な審査でございますね」
「兵が食べるものじゃ。美味しいかどうかは大事じゃろ」
「……確かに」
虎次郎が帳面を閉じる。
「では、魚を用意いたします」
「うむ」
「干物にしてみましょう」
「うむ」
「ただし」
「なんじゃ?」
「食べ過ぎて兵糧がなくならないようにお願いいたします」
「……」
「姫様?」
「兵のための魚じゃからな」
「はい」
「三匹くらいなら大丈夫じゃろ」
「姫様」
「冗談じゃ」
「本当でございますか?」
「……二匹」
「増えております」
「一匹にする」
「それでお願いいたします」
きらりが笑う。
「楽しみじゃな」
「はい」
「兵も喜ぶとよいのう」
「きっと喜ぶでしょう」
「なら、作ろう」
「はい」




