「東の国から」
城の広間。
虎次郎が、一通の書状を手にしていた。
「姫様」
「なんじゃ?」
「東の国から書状が届きました」
「東の国?」
「はい」
きらりの表情が少し変わる。
「何と書いてある?」
「中の国と四の国についてです」
「悪口か?」
「……かなり率直にございます」
「どれどれ」
きらりが書状を覗き込む。
「中の国は自国のことしか考えていない」
「はい」
「四の国は他国に頼るばかりで、自ら戦おうとしない」
「そのように書かれております」
「……」
「そして、九の国については」
「何と?」
「誠実な国である、と」
きらりが少し驚く。
「褒められておる」
「はい」
「珍しいのう」
「そうですね」
「東の国が私たちを?」
「はい」
「敵なのに?」
「敵だからこそ、でしょうか」
きらりは書状を最後まで読む。
「それで?」
「今の同盟関係を、見直してはどうか、と」
「……」
「九の国と東の国で、新たな関係を築くことも考えてほしい、とございます」
しばらく二人とも黙っていた。
「虎次郎」
「はい」
「どう思う?」
「……」
「正直に言ってよいぞ」
虎次郎は少し考えてから答える。
「東の国の考えには、理解できるところがございます」
「うむ」
「四の国のやり方に、私も思うところはあります」
「うむ」
「東の国の戦い方も、私は嫌いではありません」
きらりが虎次郎を見る。
「私もじゃ」
「はい」
「正々堂々としておるしな」
「はい」
「強いし」
「はい」
「前に戦ったときも、妙なことはしてこなかった」
「その通りです」
「では――」
きらりは書状を見る。
「東の国につくか?」
「……」
虎次郎も書状を見る。
「それは、できません」
「私もそう思う」
「はい」
「なぜじゃろうな」
虎次郎は少し考える。
「今の同盟が、正しいとは思えないからではないでしょうか」
「うむ」
「ですが」
「うむ」
「だからといって、今まで同盟を結んでいた国を見捨てて、東の国へ行くのも違う気がいたします」
「……そうじゃな」
「四の国には、助けてもらったこともございます」
「そうじゃったな」
「中の国にも」
「うむ」
「それに」
「何じゃ?」
「困っているから助けているのであって、強いから味方しているわけではありません」
きらりは少し笑う。
「そうじゃった」
「はい」
「東の国が嫌いだから断るのではない」
「はい」
「東の国が好きだからこそ、断る」
「……」
虎次郎がきらりを見る。
「姫様」
「なんじゃ?」
「今のお言葉、少し分かりにくいです」
「そうか?」
「はい」
「でも、虎次郎には分かるじゃろ?」
「……はい」
きらりは書状を畳む。
「東の国のことは嫌いではない」
「はい」
「むしろ、好感は持っておる」
「はい」
「でも、だからといって今までの仲間を捨てるのは違う」
「その通りでございます」
「東の国には、そう返そう」
「何と?」
「誘ってくれたことには礼を言う」
「はい」
「でも、今は九の国は九の国のままでいる」
「承知いたしました」
「丁寧に書いてくれ」
「もちろんでございます」
「絶対に怒らせるなよ」
「姫様」
「なんじゃ?」
「東の国を怒らせるつもりはございません」
「そうか」
「ただ、断るだけでございます」
「それが難しいのじゃろ?」
「……はい」
きらりは少し考える。
「では、こう書こう」
「はい」
「『お誘いは嬉しい』」
「はい」
「『東の国の考えにも、分かるところはある』」
「はい」
「『でも、今まで助けてきた国を置いていくことはできない』」
「……」
「『だから、今回は断る』」
虎次郎は静かに頷く。
「それでよろしいかと思います」
「うむ」
「では、書状をしたためます」
「頼んだぞ」
虎次郎が筆を取る。
きらりはその横で、もう一度東の国からの書状を見る。
「虎次郎」
「はい」
「いつか東の国と、普通に話せる日が来るとよいのう」
「……そうですね」
「戦をしないで」
「はい」
「団子でも食べながら」
「それは姫様らしい願いでございます」
「東の国の団子は美味いのか?」
「存じません」
「では、いつか確かめよう」
「戦が終われば、でございますね」
「うむ」
きらりは書状を返す。
「それまでは、敵じゃ」
「はい」
「でも、嫌いではない」
「はい」




