「前線」
城の広間。
虎次郎が、いつになく険しい顔で書状を読んでいた。
「姫様」
「なんじゃ?」
「前線から報告が届きました」
「中の国か?」
「いいえ。四の国でございます」
「四の国?」
「はい」
きらりが団子を置く。
「東の国が、かなり西へ進んでいるようです」
「そんなに?」
「はい」
「四の国は戦っておるのか?」
「戦っております」
「なら、まだ大丈夫じゃな」
「……そう簡単には言えません」
「なぜじゃ?」
虎次郎は書状をきらりの前に置く。
「前線の一部が、壊滅寸前とのことです」
「……」
きらりが書状を見る。
「九の国の兵は?」
「戦っております」
「四の国の兵と一緒に?」
「いえ」
「違うのか?」
「九の国から出した部隊だけで、前線を支えている場所がございます」
「四の国は?」
虎次郎が少し黙る。
「援軍を出していないようです」
「……」
「九の国の部隊が善戦しているため、四の国は後方から様子を見ているとのことです」
きらりの顔から、いつもの笑みが少し消える。
「見ている?」
「はい」
「戦っているのは?」
「九の国の兵です」
「四の国は?」
「動いておりません」
「……それは、おかしくないか?」
「私もそう思います」
きらりはしばらく黙っている。
「虎次郎」
「はい」
「九の国の兵は、何のために行った?」
「四の国を助けるためでございます」
「そうじゃな」
「はい」
「なら、四の国も戦えばよいのに」
「……」
「一緒に戦ったほうが、楽じゃろ?」
「その通りです」
「九の国の兵だけで戦って、もし負けたら?」
「大きな損害になります」
「それでも四の国は見ている?」
「今のところは」
きらりは少し考える。
「東の国は?」
「かなり強く攻めております」
「九の国の兵は?」
「よく戦っているそうです」
「そうか」
「はい」
「では、戻すか?」
虎次郎が顔を上げる。
「撤退させるのでございますか?」
「……」
きらりは窓の外を見る。
「四の国を助けるために送った兵じゃ」
「はい」
「勝手に戻したら、四の国が困る」
「はい」
「でも」
きらりは少し俯く。
「九の国の兵も、私たちの兵じゃ」
「……はい」
「死んでもよい兵など、一人もおらん」
虎次郎は何も言わない。
「虎次郎」
「はい」
「前線の様子を、もっと詳しく調べてくれ」
「承知いたしました」
「九の国の兵が戦っているなら、九の国として考えねばならん」
「はい」
「四の国が戦わないからといって、兵を無駄にする必要はない」
「……」
「でも、見捨てるのも違う」
「はい」
「難しいのう」
「はい」
「戦は嫌じゃな」
「私もそう思います」
きらりは団子を見る。
「……冷めてしまった」
「申し訳ございません」
「虎次郎のせいではない」
「はい」
「前線の兵には、温かいものを届けられるか?」
「兵糧の輸送隊を出せば可能です」
「では、届けよう」
「承知いたしました」
「戦っている者が腹を空かせては困る」
「はい」
「それから」
「はい?」
「四の国にも、もう一度書状を出そう」
「何と?」
きらりは少し考える。
「『こちらも戦っております』と」
「……」
「それだけでよい」
「承知いたしました」
虎次郎が書状を用意する。
きらりは再び窓の外を見る。
「四の国が、ちゃんと戦ってくれればよいのじゃが」
「……そうでございますね」




