「人の流れ」
城の広間。
虎次郎が帳面を眺めていた。
「姫様」
「なんじゃ?」
「また、人が来たそうです」
「そうか」
「はい」
「何人じゃ?」
「三人です」
「この前も来たな」
「はい」
「またか」
「またでございます」
きらりは団子を食べながら首を傾げる。
「九の国、そんなに住みやすいのか?」
「……そうなのかもしれません」
「虎次郎は住みやすいと思うか?」
「私は長く住んでおりますので、よく分かりません」
「そうか」
「ただ」
「うむ」
「最近、四の国から来る者が増えております」
きらりの手が止まる。
「四の国?」
「はい」
「何かあったのか?」
「詳しいことまでは分かりません」
「そうか」
「ただ、向こうでは仕事を失った者や、土地を離れる者が増えているようです」
「ふうん」
きらりは再び団子を食べる。
「四の国、大丈夫かのう」
「……以前ほどではないようでございます」
「そうなのか」
「はい」
「前は、ずいぶん偉そうだったのに」
「今も偉そうではあります」
「そうか」
「ただ、以前ほど人が言うことを聞かなくなっているようです」
「どうしてじゃ?」
「人が減っておりますから」
「人が?」
「はい」
きらりは少し考える。
「人がいなくなったら、国は困るな」
「はい」
「畑も耕せん」
「はい」
「店も開けん」
「はい」
「兵も減る」
「はい」
「……大変じゃな」
「そうでございます」
しばらく沈黙する。
「それで、その三人は?」
「九の国に住みたいそうです」
「住めばよい」
「はい」
「仕事は?」
「探しているようです」
「なら、探せばよい」
「住むところも必要です」
「用意しよう」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
「また何か考えておる顔じゃな」
「少しだけ」
「言ってみよ」
「四の国から人が出て」
「うむ」
「九の国に人が入ってくる」
「うむ」
「不思議なものだと思いまして」
きらりは窓の外を見る。
「人は、住みたいところへ行くのじゃろ」
「はい」
「なら、九の国に来たいと思うなら、来ればよい」
「……」
「無理に引き止める必要もない」
「はい」
「無理に呼ぶ必要もない」
「はい」
「住みたいと思ってくれるなら、それで十分じゃ」
虎次郎は少しだけ笑った。
「姫様」
「なんじゃ?」
「九の国が、少しずつ変わっているのかもしれません」
「そうか?」
「はい」
「私は何もしておらんぞ」
「……」
「団子を食べていただけじゃ」
「それだけではございません」
「またそれか」
「はい」
「では、何をした?」
虎次郎は少し考える。
「人が来たときに、追い返さなかった」
「それだけ?」
「それが大事なのかもしれません」
きらりは少し黙る。
「そうか」
「はい」
「では、これからもそうしよう」
「承知いたしました」
「来たい者は来ればよい」
「はい」
「帰りたい者は帰ればよい」
「……はい」
「ただし」
「はい?」
「九の国で団子を食べてから帰るのは許さん」
「なぜでございますか?」
「せっかく来たのじゃから、一緒に食べればよい」
「……それは、かなり九の国らしい歓迎でございますね」
「そうか?」
「はい」




