「また一人」
城の広間。
虎次郎が書状を一枚、きらりの前に置いた。
「姫様」
「なんじゃ?」
「九の国に住みたいという者がいるそうです」
「住めばよい」
「……お読みにならなくてもよろしいので?」
「住みたいのであろう?」
「はい」
「では、住めばよい」
「ずいぶん簡単に決められますね」
「住むだけじゃろ?」
「そうですが」
「家が必要じゃな」
「はい」
「仕事も?」
「必要でございます」
「なら、仕事を探してやろう」
「はい」
「米も食べる」
「はい」
「団子も?」
「……人によるかと」
「九の国に来たら、団子を食べるべきじゃ」
「そんな決まりはございません」
「今から決めよう」
「おやめください」
きらりは書状を見る。
「どこから来たのじゃ?」
「近くの国からでございます」
「一人?」
「今のところは」
「今のところ?」
「家族も一緒に来たいそうです」
「では、何人じゃ?」
「五人」
「五人か」
きらりが少し考える。
「一人ではないではないか」
「はい」
「では、『また一人』ではないな」
「最初から一人とは申し上げておりません」
「そうだったか?」
「はい」
「では、『また五人』じゃな」
「そうなります」
「人が増えるのはよいことじゃ」
「はい」
「でも、五人分の家が必要になる」
「はい」
「五人分の米も」
「はい」
「五人分の団子も」
「……団子は必須ではありません」
「大事じゃぞ」
「承知しております」
きらりは少し考える。
「虎次郎」
「はい」
「九の国、家が足りなくなるのではないか?」
「いずれ、そうなるかもしれません」
「では、家を増やそう」
「はい」
「でも、家を建てる人も必要じゃ」
「はい」
「木も必要じゃ」
「はい」
「また人が必要になる」
「……そうでございますね」
「人が来ると、人が必要になるのう」
「少々ややこしゅうございます」
「でも、面白い」
「はい」
「人が増えると、仕事も増える」
「はい」
「仕事が増えると、また人が来る」
「はい」
「そのうち、九の国が人でいっぱいになる」
「そこまで増えれば、かなり嬉しい問題でございます」
「そうか」
きらりは少し笑う。
「では、いっぱいになるまで受け入れよう」
「……」
「どうした?」
「いえ」
「何じゃ?」
「姫様は、ずいぶん簡単に人を受け入れられますね」
「住みたいと言っておるのじゃろ?」
「はい」
「なら、断る理由がない」
「……そうですね」
「それに」
「はい?」
「人が増えるのは、寂しくない」
虎次郎が少しだけ黙る。
「そうでございますね」
「城下が賑やかなほうが楽しいじゃろ」
「はい」
「虎次郎も寂しくない」
「私は寂しくありません」
「本当か?」
「はい」
「ならよい」
きらりは団子を一つ取る。
「ところで」
「はい」
「五人来るなら、団子は何本いる?」
「そこを心配されるのでございますか?」
「重要じゃ」
「……五人分でよろしいかと」
「私の分は?」
「もちろん別でございます」
「虎次郎の分は?」
「私は結構です」
「駄目じゃ」
「なぜでございますか?」
「人が増えた祝いじゃ」
「まだ来てもおりません」
「来る前祝いじゃ」
「……」
「虎次郎」
「はい」
「団子を買ってこよう」
「承知いたしました」
「五人分」
「はい」
「私の分」
「はい」
「それから虎次郎の分」
「……はい」
「全部で?」
「七人分でございます」
「多いのう」
「姫様が言い出したのでございます」
「そうだったか?」
「はい」
「では、仕方ない」
「何がでございますか?」
「食べるしかない」
「……そうでございますね」




