「輸送」
城の広間。
虎次郎は地図を広げ、その上にいくつかの印を置いていた。
「虎次郎」
「はい」
「また難しい顔をしておるな」
「援軍の兵糧と武器について考えております」
「一緒に持っていけばよいではないか」
「兵と一緒に運ぶということでございますか?」
「うむ」
「それが今までのやり方でございます」
「では、何が問題じゃ?」
「兵が進めば、荷も一緒に進みます」
「当たり前じゃ」
「ですが、荷が遅れれば兵も止まります」
「荷が?」
「はい。道が悪ければ、米も武器も届きません」
きらりは地図を見る。
「兵は?」
「先に進めます」
「なら、先に進ませればよい」
「兵糧が届きません」
「……」
きらりは少し考える。
「虎次郎」
「はい」
「兵と荷物を、同じ場所に置かなくてもよいのではないか?」
虎次郎の手が止まる。
「……どういうことでございますか?」
「兵は前へ行く」
「はい」
「米や武器は、その後ろに置いておく」
「はい」
「必要になったら、そこから持っていけばよい」
「……」
「何じゃ?」
虎次郎は地図を見直す。
「姫様」
「うむ」
「それなら、兵が進むたびに荷物まで動かす必要がありません」
「そうじゃ」
「途中に置き場を作れば……」
「そこから運べばよい」
「……なるほど」
「それなら、兵が重いものを持って歩かなくてもよい」
「はい」
「米もまとめて運べる」
「はい」
「武器もまとめて置いておける」
「はい」
「必要なときに必要な分だけ持っていけばよい」
「……」
「虎次郎?」
「姫様」
「なんじゃ?」
「それは、かなり便利でございます」
「そうか?」
「はい」
虎次郎は地図の上に新しい印を置く。
「ここに置いて」
「うむ」
「ここにも」
「うむ」
「ここまで兵が進んだら、ここから運ぶ」
「そうじゃ」
「そして、さらに前へ進んだら、次の場所から運ぶ」
「うむ」
「……」
「どうした?」
「少し考えれば分かることなのに、今まで兵と一緒に運ぶことばかり考えておりました」
「荷物が重いからじゃな」
「はい」
「なら、荷物を兵から離せばよい」
「……」
「簡単じゃろ?」
「姫様は、ときどき本当に驚くようなことをおっしゃいます」
「そうか?」
「はい」
「では、これで兵も楽になるな」
「はい」
「兵糧も届きやすくなる」
「はい」
「武器も届く」
「はい」
「では、もっと遠くまで援軍を出せる」
「……そこまで考えておられたので?」
「今考えた」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
「また感心しておるのか?」
「はい」
「では、褒めてよいぞ」
「お見事でございます、姫様」
「うむ」
「ただし」
「なんじゃ?」
「置いておく場所を守る兵も必要になります」
「……」
「どうされました?」
「兵を増やしたばかりなのに」
「はい」
「また必要になるのか」
「はい」
「戦とは、面倒じゃな」
「まことに」
きらりは地図を見る。
「では、置き場は町の近くにしよう」
「なぜでございますか?」
「人がいるところなら、守りやすいじゃろ」
「……なるほど」
「それに」
「はい」
「米を置いておけば、戦がなくても役に立つ」
「備蓄にもなります」
「そうじゃ」
虎次郎はまた地図に印をつける。
「姫様」
「うむ」
「これなら、九の国の中でも使えそうでございます」
「兵のためだけではなく?」
「はい」
「米を運ぶのにも?」
「はい」
「商いにも?」
「はい」
「では、道を直す話ともつながるな」
「……その通りでございます」
「九の国、少しずつ賢くなってきたのう」
「姫様が、でございます」
「私は団子を食べていただけじゃ」
「それだけではございません」
「では、続きを考えるか」
「はい」
「まずは団子を食べよう」
「……それは考えた後でもよろしいのでは?」
「輸送には腹が減るからのう」
「兵ではなく、姫様の輸送を心配したほうがよさそうでございます」
「何じゃそれは」
「何でもございません」




