「また援軍」
城の広間。
虎次郎は二通の書状を机の上に並べていた。
「姫様」
「なんじゃ?」
「また援軍の要請でございます」
「またか?」
「はい」
「中の国?」
「はい」
「四の国も?」
「はい」
「二つとも?」
「二つともでございます」
きらりは書状を見比べる。
「仲がよいのう」
「そういう意味ではございません」
「では、何じゃ?」
「どちらも戦で苦しくなっているのでございます」
「そうか」
きらりは少し考える。
「前にも送ったな」
「はい」
「また送ったら、九の国の兵が減る」
「以前なら、そうでございました」
「……以前なら?」
虎次郎は兵の名簿を広げる。
「今は、少し増えております」
きらりが覗き込む。
「本当じゃ」
「はい」
「いつの間に?」
「少しずつでございます」
「少しずつ?」
「兵になりたいという者が増えました」
「そうなのか」
「農民から兵になった者もおりますし、他国から来た者もおります」
「そうか」
きらりは名簿を眺める。
「では、前より出せるな」
「はい」
「どれくらい?」
「以前よりは多く出せます」
「では、両方に送ろう」
「承知いたしました」
「でも」
「はい」
「全部は駄目じゃ」
「もちろんでございます」
「九の国が空になる」
「その通りです」
「帰ってくる兵の場所も必要じゃ」
「はい」
「それに米も食べる」
「はい」
「武器もいる」
「はい」
「怪我をしたら治さねばならん」
「はい」
「兵を増やすというのは、大変じゃな」
「ようやくお分かりになりましたか」
「うむ」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
虎次郎は少し笑う。
「最初に姫様が『兵を増やそう』とおっしゃったときのことを思い出しておりました」
「そうだったか?」
「はい」
「何と言った?」
「倍にしよう、と」
「うむ」
「私が無理だと申し上げました」
「そうだったな」
「今は、その頃よりずいぶん増えております」
きらりは名簿を見る。
「九の国、強くなった?」
虎次郎は少し考える。
「ほんの少しだけ」
「ほんの少しか」
「はい」
「では、もう少し強くしよう」
「そうしましょう」
「そのためにも、兵を出す」
「はい」
「おかしな話じゃな」
「何がでございますか?」
「強くなったから兵を出せるのに、兵を出したらまた兵が減る」
「その通りでございます」
「なら、帰ってきたらまた増やそう」
「はい」
「少しずつ」
「はい」
「急に倍にはせん」
「それがよろしいかと」
きらりは二通の書状を手に取る。
「中の国にも」
「はい」
「四の国にも」
「はい」
「同じくらい?」
「状況を見て調整いたします」
「うむ」
「ただし」
「なんじゃ?」
「今回は前より多く出せます」
「そうか」
きらりが少し嬉しそうに笑う。
「九の国、ちゃんと大きくなっておるのう」
「はい」
「兵だけじゃなく?」
「はい」
「米も?」
「はい」
「人も?」
「はい」
「商いも?」
「少しずつ」
「では、よい国になってきた」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
「また感心しておるのか?」
「はい」
「何に?」
「九の国が強くなったことを、姫様が自分の手柄にされないところに」
「私の手柄ではないぞ」
「はい」
「皆が働いてくれたからじゃ」
「……はい」
「私は少し考えただけじゃ」
「その『少し』が、国を変えているのでございますが」
「そうなのか?」
「はい」
「では、これからも少し考えるか」
「お願いいたします」
「ただし」
「はい」
「団子を食べながらじゃ」
「……そこは変わらないのでございますね」
「当たり前じゃ」
「承知いたしました」




