「帰ってきた兵」
城の広間。
援軍に出ていた兵たちが、九の国へ戻ってきた。
虎次郎が帰還した兵の名簿を確認している。
「全員、戻りました」
「そうか」
「はい」
きらりは少し安心したように息をつく。
「怪我をした者は?」
「何人かおります」
「ひどいのか?」
「幸い、大きな怪我はございません」
「そうか。よかった」
「……」
「どうした?」
「いえ」
「何じゃ?」
「姫様が、ずいぶん心配されていたので」
「当たり前じゃろ」
「兵でございますよ?」
「だからじゃ」
きらりは少し不思議そうに虎次郎を見る。
「虎次郎」
「はい」
「兵だって、家に帰れば誰かが待っておるじゃろ?」
「……はい」
「父親だったり、母親だったり」
「はい」
「妻や子がいる者もおる」
「はい」
「なら、怪我をして帰ってきたら心配する」
「……そうでございますね」
きらりは名簿を見る。
「清吉は?」
「清吉?」
「腕を痛めておった者じゃ」
虎次郎が名簿を見る。
「……清吉は、軽い打撲でございます」
「そうか」
「姫様、よく覚えておられますね」
「覚えておるぞ」
「他にも?」
「勘助は足じゃ」
「……はい」
「新之助は?」
「新之助は無傷でございます」
「そうか」
「喜助は?」
「……」
虎次郎が名簿を見直す。
「喜助も無事でございます」
「よかった」
「姫様」
「なんじゃ?」
「全員のことを覚えておられるのでございますか?」
「全員ではない」
「では?」
「顔を見れば分かる」
「名前も?」
「うむ」
「いつ覚えられたので?」
きらりは少し考える。
「いつだったかのう」
「……」
「一度会った者は、なるべく覚えるようにしておる」
「なぜでございますか?」
「名前を呼ばれたほうが、嬉しいじゃろ?」
虎次郎は黙る。
「それだけじゃ」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
「また変な顔をしておるぞ」
「少し感心していただけでございます」
「何に?」
「姫様が、兵を兵としてだけ見ておられないことに」
「兵は兵じゃろ」
「はい」
「でも、人でもある」
「……はい」
「だから帰ってきたら、『おかえり』と言えばよい」
「そうでございますね」
「それに」
「はい?」
「名前を呼んだら、ちゃんと帰ってきた気がする」
「……」
「どうした?」
「いえ」
虎次郎は少し笑った。
「姫様らしいお言葉だと思いまして」
「そうか?」
「はい」
きらりは立ち上がる。
「では、会いに行こう」
「兵たちにですか?」
「うむ」
「お疲れでしょうから、今日は休ませて――」
「だからじゃ」
「……」
「帰ってきたのじゃろ?」
「はい」
「なら、『おかえり』と言わねば」
「承知いたしました」
二人が広間を出ようとする。
「虎次郎」
「はい」
「団子を持っていってよいか?」
「兵たちにですか?」
「うむ」
「もちろんでございます」
「一人一つじゃ」
「はい」
「……」
「何か?」
「姫様の分は?」
「ない」
「よろしいので?」
「皆が帰ってきた祝いじゃからな」
「……」
「何じゃ?」
「やはり、姫様には敵いません」
「何の話じゃ?」
「いえ、何でもございません」
「変な虎次郎じゃな」
「いつものことでございます」




