「道」
城下へ続く道。
きらりと虎次郎は、城から少し離れた道を歩いていた。
「虎次郎」
「はい」
「遅い」
「申し訳ございません」
「なぜじゃ?」
「道が悪いのでございます」
「そうじゃな」
二人の前には、ぬかるんだ道が続いている。
「雨が降ると、もっと酷くなります」
「米を運ぶのも大変そうじゃ」
「はい」
「人も歩きにくい」
「はい」
きらりはしばらく道を眺める。
「道を広くしよう」
「よろしいと思います」
「それから、まっすぐにしよう」
「はい」
「近道じゃ」
「……」
虎次郎が少し考える。
「城までの道を短くするのでございますか?」
「いや」
「では?」
「皆の道を短くする」
「皆の?」
「うむ」
きらりは道の先を見る。
「城から町まで近くするだけでは意味がない」
「はい」
「田から町へ米を運ぶ道も」
「はい」
「町から隣の村へ行く道も」
「はい」
「人が商売に行く道も」
「はい」
「全部、歩きやすくしたい」
虎次郎は少し驚いたようにきらりを見る。
「姫様」
「なんじゃ?」
「てっきり、兵を早く動かすためかと思っておりました」
「兵にも必要じゃ」
「はい」
「でも、兵だけが使う道ではないじゃろ?」
「……はい」
「兵は戦がなければ歩かん」
「そうでございますね」
「でも、領民は毎日歩く」
「はい」
「なら、毎日使う人のほうを大事にしたい」
虎次郎は黙って道を見る。
「それに」
「はい?」
「米を運ぶ人が楽になれば、米も早く届く」
「はい」
「商人が歩きやすければ、商いも増える」
「はい」
「人が行き来すれば、九の国も賑やかになる」
「……はい」
「兵が動きやすくなるのは、その後じゃ」
「なるほど」
きらりは少し得意そうにする。
「どうじゃ?」
「素晴らしいと思います」
「では、すぐ作ろう」
「どこから始めますか?」
「ここから」
「はい」
「……あっちまで」
きらりが遠くを指差す。
「はい」
「その先も」
「はい」
「さらに向こうも」
「……」
「何じゃ?」
「姫様」
「うむ」
「九の国中の道を直すおつもりですか?」
「できるだけ」
「かなりのお金がかかります」
「そうか」
「人手も必要です」
「そうか」
「時間もかかります」
「そうか」
きらりは少し考える。
「では、急がなくてよい」
「よろしいので?」
「道は一日でできん」
「はい」
「でも、作り始めれば、いつかできる」
「……」
「今日より明日、明日よりその先が歩きやすくなればよい」
虎次郎は微笑む。
「姫様」
「なんじゃ?」
「それなら、九の国の人々も喜ぶでしょう」
「うむ」
「戦のためだけではなく」
「人のためじゃ」
「はい」
きらりは足元のぬかるみを見る。
「しかし」
「はい?」
「この道は嫌じゃ」
「私も同感でございます」
「泥がついた」
「姫様の靴にもついております」
「帰ったら団子じゃ」
「なぜでございますか?」
「道を直す前祝い」
「……まだ一本も直しておりません」
「だから前祝いじゃ」
「なるほど」
「分かったか?」
「はい」
「では、団子を買って帰ろう」
「承知いたしました」
二人は来た道を戻っていく。
きらりは何度もぬかるみに足を取られながら、それでも振り返って道を眺めていた。
「虎次郎」
「はい」
「この道、いつかちゃんとした道になるかのう」
「なります」
「皆が歩きやすい?」
「はい」
「米を運ぶ人も?」
「はい」
「商人も?」
「はい」
「兵も?」
「もちろんでございます」
「では、よい道じゃな」
「はい」
「私が城へ早く帰るための道ではなく」
「はい」
「皆が少しでも楽に行き来できる道にしよう」
「承知いたしました」
「……」
「どうされました?」
「いや」
「はい」
「なんとなく、楽しみじゃ」
「私もでございます」
「では、帰ろう」
「はい」
「虎次郎」
「はい」
「今度は、泥の少ないところを歩け」
「姫様が先に歩いてください」
「嫌じゃ」
「……やはり私が先でございますね」
「うむ」
「承知いたしました」




