「税」
城の広間。
虎次郎は帳面を広げていた。
きらりは隣から数字を覗き込んでいる。
「虎次郎」
「はい」
「九の国の金、増えたか?」
「少しずつでございます」
「少しだけか」
「人も兵も増えておりますから」
「使うお金も増える」
「はい」
「では、税を増やそう」
虎次郎の筆が止まる。
「……増やすのでございますか?」
「国を強くするには、お金がいるのじゃろ?」
「はい」
「なら、皆から少しずつ取ればよい」
「それでよろしいのでしょうか」
「駄目か?」
「領民の暮らしもございます」
「そうじゃな」
きらりは少し考える。
「では、税を増やすのはやめよう」
「よろしいので?」
「うむ」
「では、どうやってお金を増やしましょう?」
「……」
きらりは窓の外を見る。
「皆に、もっと儲けてもらえばよい」
「儲けてもらう?」
「うむ」
「税を取るのではなく?」
「儲かったら、その中から少しもらえばよい」
虎次郎が黙る。
「そのほうが、皆も嬉しかろ?」
「……はい」
「儲かっていないのに取られたら、苦しい」
「はい」
「儲かっているなら、少しくらい出せる」
「その通りでございます」
「なら、商売をしやすくしよう」
「どのように?」
「知らん」
「……」
「虎次郎、考えてくれ」
「私が考えるのでございますか?」
「うむ」
「姫様は?」
「私は、団子を食べながら考える」
「それでは私だけ働いているように見えます」
「実際に働いておるではないか」
「……」
「何じゃ?」
「いえ」
虎次郎はため息をつきながら帳面をめくる。
「商人が物を売りやすくするなら、場所が必要です」
「うむ」
「いちいち許可を取らなくても商売できるようにすれば、人も集まるでしょう」
「うむ」
「店が増えれば、物も増えます」
「うむ」
「人が集まれば、売る物も売れる物も増えます」
「うむ」
「そうなれば、商人も儲かるでしょう」
「よいではないか」
「その中から、国にも納めてもらう」
「そうじゃ」
虎次郎は筆を置く。
「姫様」
「なんじゃ?」
「税を増やすより、税を払える者を増やすおつもりなのですね」
「そういうことじゃ」
「……」
「どうした?」
「いえ」
「また感心しておるのか?」
「はい」
「何に?」
「姫様は、ときどき驚くほど簡単に物事を考えられますので」
「褒めておるのか?」
「褒めております」
「そうか」
きらりは嬉しそうに団子を一つ取る。
「では、商人を増やそう」
「はい」
「店も増やそう」
「はい」
「人が来れば、城下も賑やかになる」
「はい」
「賑やかになれば、皆が儲かる」
「はい」
「儲かれば、国も儲かる」
「はい」
「それなら、誰も損をせん」
「……そう簡単には参りませんが」
「でも、最初から取るよりはよいじゃろ?」
「はい」
「儲けたら、少し国に返してもらう」
「はい」
「国はそのお金で、また道や田を整える」
「……」
「そうすれば、また儲けやすくなる」
虎次郎はきらりを見る。
「姫様」
「なんじゃ?」
「それは、なかなか面白い仕組みになりそうでございます」
「そうか?」
「はい」
「では、決まりじゃ」
「何を?」
「九の国では、儲ける者を増やす」
「承知いたしました」
「税を取るために商売をさせるのではなく」
「はい」
「商売が栄えた結果として、税が増えるようにする」
「……」
「どうじゃ?」
「素晴らしいと思います」
「では、これで九の国は金持ちじゃな」
「まだ何も始まっておりません」
「そうか」
「はい」
「では、始まる前に団子を食べよう」
「なぜでございますか?」
「商いが栄えるには、人が集まらねばならん」
「はい」
「人が集まるには、団子屋も必要じゃ」
「……」
「大事な仕事じゃぞ?」
「姫様の頭の中では、団子屋が国政の中心なのでございますね」
「もちろんじゃ」
「……それも、いつか役に立つのでしょうか」
「たぶんな」
「その『たぶん』が少々心配でございます」
「虎次郎なら大丈夫じゃ」
「なぜ私なのでございますか?」
「儲かる仕組みを考えるのは、虎次郎の仕事じゃから」
「……承知いたしました」
「頼んだぞ」
「はい、姫様」
「私は団子を食べておく」
「それは私の仕事ではありません」
「そうなのか?」
「はい」
「では、二人で食べよう」
「……それなら賛成でございます」




