「畑」
城下の畑。
きらりは鍬を手に持ち、やる気満々で立っていた。
その隣で、虎次郎は嫌な予感しかしない顔をしている。
「姫様」
「なんじゃ?」
「なぜ鍬を持っておられるのでございますか?」
「畑を耕す」
「……なぜ?」
「米が必要だからじゃ」
「それは存じております」
「では、私が耕せばよい」
「姫様が?」
「うむ」
「当主でございますよ?」
「知っておる」
「国を治めるお仕事がございます」
「畑も国の一部じゃろ?」
「……」
「違うのか?」
「いえ、違いません」
「では問題ない」
「大問題でございます」
きらりは鍬を振り上げる。
「こうじゃな?」
「お待ちください」
「なんじゃ?」
「まず、鍬の持ち方が違います」
「そうなのか?」
「はい」
「では、こう?」
「もう少し下を」
「こう?」
「はい」
「これでよいか?」
「はい」
「では――」
きらりが鍬を振り下ろす。
ガツン。
「……」
「……」
「硬いのう」
「土でございますから」
「もっと柔らかくできぬのか?」
「耕すのでございます」
「なるほど」
きらりはもう一度振り下ろす。
「ふんっ」
「姫様」
「なんじゃ?」
「力を入れすぎです」
「畑に負けたくない」
「畑と戦わないでください」
「しかし、なかなか手強いぞ」
「畑は敵ではございません」
「東の国より強いかもしれん」
「比較するものではございません」
きらりはしばらく鍬を振る。
「虎次郎」
「はい」
「これを毎日やっておるのか?」
「農民たちはそうしております」
「大変じゃな」
「はい」
「私には無理じゃ」
「それはよかったです」
「でも、米は必要じゃ」
「はい」
「なら、農民を大事にせねばならんな」
「……はい」
「田を荒らさない」
「はい」
「戦で畑を踏み荒らさない」
「はい」
「兵に勝手に米を取らせない」
「はい」
「ちゃんと米を買う」
「その通りでございます」
「それなら農民も安心して作れる」
「はい」
きらりは鍬を地面に置く。
「よし」
「もうおやめになりますか?」
「うむ」
「賢明でございます」
「私が畑を耕すより、農民に任せたほうがよい」
「その通りでございます」
「私は当主だから、別のことをする」
「何を?」
「農民が畑を耕せるようにする」
「……」
「虎次郎?」
「いえ」
「また変な顔じゃ」
「少し感心していただけでございます」
「何に?」
「姫様が、最初は畑を耕すとおっしゃっていたのに」
「うむ」
「最後には、農民が安心して畑を耕せる国を作ろうとしておられるので」
「そうか?」
「はい」
「では、私は畑を耕さなくてよいのじゃな?」
「はい」
「よかった」
「……」
「腕が疲れた」
「まだ一度しか振っておりません」
「十分働いた」
「姫様」
「なんじゃ?」
「もう少しだけ働いていただけますか?」
「嫌じゃ」
「即答でございますね」
「私は当主じゃからな」
「先ほどと言っていることが違います」
「当主は都合がよいのじゃ」
「……そのようでございます」




