「商人」
城の広間。
きらりは帳面を眺めていた。
「虎次郎」
「はい、姫様」
「米を増やすには、田がいる」
「はい」
「田を増やすには、人がいる」
「はい」
「兵を増やすには、武器もいる」
「はい」
「……お金がいるのう」
「はい」
「虎次郎」
「はい」
「商いというのは、儲かるのか?」
「もちろんでございます」
「では、商人を呼ぼう」
「……」
「どうした?」
「突然でございますね」
「お金が必要なのじゃろ?」
「はい」
「なら、商いをすればよい」
「それだけではございません」
「なぜじゃ?」
「物が動けば、人も動きます」
「人が?」
「はい。米が余っているところから、足りないところへ運ばれます。武器も同じです」
「なるほど」
「九の国だけですべてを作る必要はございません」
「では、買えばよい」
「はい」
「売ってもよい?」
「もちろんです」
「では、九の国で作った米を売って、足りないものを買えばよいのじゃな」
「そういうことでございます」
「便利じゃな」
「商いとは、そういうものでございます」
「なら、商人は大事じゃ」
「はい」
「でも、商人が九の国に来なかったら?」
「……」
「来てもらえばよい」
「はい」
「どうすれば来る?」
「安心して商売ができる場所にすることでしょうか」
「安心?」
「盗まれない。襲われない。無理な税を取られない。売ったものをきちんと買ってもらえる」
「それなら来るのか?」
「来る者は増えると思います」
「では、そうしよう」
「……姫様」
「なんじゃ?」
「また一つ、九の国の仕組みが変わりそうでございます」
「そうか?」
「はい」
「私は商人を呼ぼうと思っただけじゃぞ」
「ですが、それだけではございません」
「?」
「人が来れば、物も来ます。物が来れば、また人が来ます」
「ふむ」
「九の国で作るものが増えれば、売る相手も必要になります」
「では、もっと人が来る」
「おそらく」
「人が増えるのは、よいことじゃな」
「はい」
「兵も増える」
「はい」
「米も増える」
「はい」
「お金も増える」
「……そう簡単ではございませんが」
「でも、前よりはよくなる?」
「きっと」
「では、商いは大事じゃ」
「はい」
「虎次郎」
「はい」
「私、少し賢くなったか?」
「……はい」
「本当か?」
「はい」
「では今日は団子を二つ食べよう」
「それは賢さとは関係ございません」
「そうか?」
「はい」
「では一つにする」
「そこは素直なのでございますね」
「商いを大事にするからのう」
「団子屋との商いを?」
「うむ」
「……それも大事ではございます」
「じゃろ?」
「はい」
「では、買ってこよう」
「私もご一緒いたします」
「なぜじゃ?」
「姫様が団子を買うと、三つ買ってしまいそうですので」
「二つじゃ」
「前は一つとおっしゃいました」
「商いは景気よくじゃ」
「……その理屈は少し心配でございます」




