「兵糧」
城の広間。
虎次郎は帳面をめくっていた。
きらりはその向かいで、何となく覗き込んでいる。
「虎次郎」
「はい」
「兵を増やすには、何がいる?」
「兵でございます」
「それは分かっておる」
「失礼いたしました」
「他には?」
「武器、馬、兵糧などでございます」
「兵糧とは?」
「米などでございます」
「米か」
きらりは少し考える。
「米は、たくさんあるか?」
「今のところは足りております」
「今のところ?」
「兵を増やせば、足りなくなるかもしれません」
「兵が増えると米も増えるのか?」
「食べる者が増えます」
「なるほど」
きらりは帳面を見る。
「では、兵を増やす前に米を増やそう」
「はい」
「どのくらい?」
「できるだけ多く」
「百俵」
「もっと必要になるかもしれません」
「二百俵」
「それでも足りないかもしれません」
「では千俵」
「……姫様」
「なんじゃ?」
「米は数字を増やせば、すぐに出てくるものではございません」
「そうなのか?」
「田が必要でございます」
「田があればよい?」
「人も必要です」
「農民か」
「はい」
「兵を増やすために、農民が必要なのじゃな」
「そうなります」
きらりは少し黙る。
「では、農民を兵にしてはいかんな」
「……」
虎次郎が顔を上げる。
「姫様」
「なんじゃ?」
「先ほどのお話と、つながっておりますね」
「そうか?」
「はい」
「兵が米を食べる」
「はい」
「米は農民が作る」
「はい」
「では、農民がいなくなったら兵も困る」
「その通りでございます」
「だから、兵は兵のままにする」
「……はい」
きらりは満足そうに頷く。
「これで兵も増やせるな」
「すぐには増えませんが」
「米も?」
「すぐには増えません」
「難しいのう」
「国を強くするというのは、そういうことでございます」
「では、まず田を増やそう」
「はい」
「その次に兵じゃ」
「はい」
「虎次郎」
「はい?」
「田んぼって、城の中にも作れるか?」
「……作れません」
「そうか」
「城の庭も駄目です」
「まだ何も言っておらんぞ」
「姫様のことですから」
「むう」
「畑なら、城下にございます」
「では、明日見に行こう」
「よろしいですが……」
「なんじゃ?」
「姫様が田植えを始めないよう、見張っておきます」
「私は当主じゃぞ?」
「存じております」
「なら、田植えくらいしてもよいではないか」
「当主が田植えをしてはいけないとは申しません」
「では?」
「姫様が夢中になると、仕事を全部忘れそうでございます」
「……」
「心当たりがおありですか?」
「少しある」
「私にもございます」
「では、明日は一緒に行こう」
「承知いたしました」
「田植えをするぞ」
「見学でございます」
「……見学か」
「はい」
「つまらんのう」
「国主に田植えをさせる家臣も困ります」
「虎次郎は心配性じゃな」
「姫様に関してだけでございます」
「そうか」
「はい」
「では、明日は見学じゃ」
「ありがとうございます」
「その代わり、帰りに団子を買おう」
「それは私の仕事ではございません」
「では、私が買う」
「……それなら安心でございます」




