「兵を増やそう」
城の広間。
きらりは文机に置かれた兵の名簿を眺めていた。
向かいでは虎次郎が書状を整理している。
「虎次郎」
「はい、姫様」
「兵を増やそう」
「……突然でございますね」
「東の国が近づいておるからな」
「お分かりになっていたのですか?」
「うむ」
「では、何人ほど増やしましょう?」
「倍」
「無理でございます」
「では三倍」
「もっと無理でございます」
「なぜじゃ?」
「兵になる者が、それほどおりません」
「九の国には人がおらんのか?」
「小さな国でございますから」
「そうか」
きらりは名簿を眺める。
「では、農民を兵にしよう」
「それも簡単ではございません」
「なぜじゃ?」
「農民がいなくなれば、畑を耕す者がいなくなります」
「では、兵になった農民は、戦が終わったら畑に戻ればよい」
「そうなります」
「では、畑は荒れるな」
「……はい」
「戦に行っている間は、誰が耕す?」
「残った者でございます」
「その者たちも戦に呼ばれたら?」
「……」
「米がなくなるな」
「はい」
きらりは少し考える。
「では、兵は兵にしよう」
「……はい?」
「農民は農民じゃ」
「姫様」
「何じゃ?」
「それは……」
虎次郎は少し考えてから、名簿を置いた。
「兵を、農民から切り離すということでございますか?」
「そうじゃ」
「ですが、それでは兵の数を増やせません」
「今よりは増やせるじゃろ?」
「どうしてでございますか?」
「農民を兵にしなくてよいなら、兵になる者を兵にできる」
「……」
「戦が終わっても、畑に戻らなくてよい」
「……なるほど」
「兵は戦う」
「はい」
「農民は米を作る」
「はい」
「米があれば、兵も戦える」
「……はい」
「簡単じゃろ?」
虎次郎はしばらく黙っている。
「姫様」
「なんじゃ?」
「それは、かなり大きな仕組みを変えることになります」
「そうなのか?」
「はい」
「難しいのう」
「いえ」
「なんじゃ?」
「……むしろ、今までなぜ誰もそう考えなかったのかと思っております」
「そうか?」
「はい」
「では、やってみよう」
「承知いたしました」
「虎次郎」
「はい」
「兵を増やすのじゃろ?」
「はい」
「では、人を集めよう」
「どこから?」
「九の国から」
「それだけでは足りないかもしれません」
「では、九の国の外から」
「……」
「何じゃ?」
「姫様」
「うむ」
「九の国は、少しずつ変わるかもしれません」
「兵が増えるからか?」
「それだけではないような気がいたします」
「?」
「いえ。まずは兵を集めましょう」
「うむ」
「その前に、食糧も必要です」
「では、米も増やそう」
「はい」
「忙しくなるのう」
「そうでございますね」
「では、今日は団子を食べよう」
「……なぜでございますか?」
「忙しくなる前に食べておかねば」
「姫様」
「なんじゃ?」
「団子はいつでも食べられます」
「そうなのか?」
「はい」
「では、明日も食べよう」
「……承知いたしました」




