「近くなった」
城の広間。
虎次郎は地図を広げ、届いた報告書に目を通していた。
きらりはその隣から、地図をのぞき込んでいる。
「虎次郎」
「はい」
「東の国、また近くなった?」
「はい」
「どのくらい?」
「以前より、かなり西へ進んでおります」
「四の国は?」
「東の国と向かい合うところまで下がっております」
「もうそんなところまで?」
「はい」
「四の国、大丈夫かのう」
「かなり苦しくなっております」
「それでも、こちらには催促してくるのか?」
「はい」
「元気じゃな」
「そういう問題ではございません」
「そうか」
きらりは地図を眺める。
「中の国は?」
「まだ戦っております」
「東の国と?」
「いえ。中の国は、まだ直接には東の国と戦っておりません」
「では、誰と?」
「北の国と陸の国が東の国と対峙しております」
「中の国は、その後ろにいるのか?」
「そういう形になっております」
「なるほど」
「東の国がそこを突破すれば、中の国も無関係ではなくなります」
「ふむ」
きらりは地図の上を指でなぞる。
「ここが四の国」
「はい」
「ここが中の国」
「はい」
「そして、ここが九の国」
「はい」
「……近くなったな」
「そうでございます」
「前はもっと遠かったのに」
「はい」
「戦というのは、歩いてくるものなのじゃな」
「軍が進めば、そうなります」
「嫌じゃな」
「はい」
「でも、四の国はまだ私たちを呼んでおる」
「はい」
「『早く来い』と」
「はい」
「自分たちのところまで戦が来ているのに?」
「そうでございます」
「不思議じゃな」
「私にも理解しにくいところでございます」
「中の国は?」
「中の国も援軍を求めております」
「みんな忙しいのう」
「姫様の国も他人事ではございません」
「そうなのか?」
「戦線が少しずつ、こちらへ近づいております」
「でも、まだ九の国には来ておらん」
「まだ、でございます」
「では、まだ大丈夫じゃ」
「姫様」
「なんじゃ?」
「『まだ』という言葉を、最近よくお使いになりますね」
「便利じゃからな」
「便利ですか?」
「うむ」
「どういう意味で?」
「今は困っていない、という意味じゃ」
「……なるほど」
「だから、今日も大丈夫じゃ」
「今日は、でございますか?」
「明日は知らん」
「姫様」
「なんじゃ?」
「そういうところは、妙に現実的でございますね」
「そうか?」
「はい」
きらりは地図をもう一度眺める。
「虎次郎」
「はい」
「明日も、まだ遠いとよいのう」
「……はい」
「では、今日は団子にしよう」
「またでございますか?」
「戦が近づいておるからな」
「理由になっておりません」
「私にはなっておる」
「……承知いたしました」




