「荷造り」
城の広間。
きらりは大きな風呂敷を広げ、その前に座っていた。
虎次郎は何をしているのか分からないまま、様子を見ている。
「姫様」
「なんじゃ?」
「何をなさっているのでございますか?」
「荷造りじゃ」
「……何のための?」
「引っ越しじゃ」
「またでございますか」
「うむ」
「本当に引っ越されるおつもりで?」
「昨日言ったじゃろう」
「昨日は冗談かと思っておりました」
「私はいつでも本気じゃ」
「それは存じております」
「何を持っていく?」
「姫様がお決めになることでございます」
「では、全部」
「全部?」
「うむ」
「何を、でございますか?」
「全部じゃ」
「……」
「服も、本も、食器も、布団も」
「はい」
「城の家具も」
「はい?」
「倉の米も」
「姫様」
「馬も」
「……」
「兵も」
「それは荷物ではございません」
「そうか?」
「はい」
「では、どうする?」
「必要なものだけにしてください」
「では城は置いていく」
「それなら安心いたしました」
「城もじゃ」
「持てません」
「なぜじゃ?」
「城でございますから」
「大きいから?」
「大きいからです」
「分解すればよい」
「簡単に言わないでください」
「屋根を外して」
「壊れます」
「壁も外して」
「壊れます」
「柱も外して」
「全部外したら何も残りません」
「では、持っていけぬのか」
「はい」
「不便じゃな」
「城を持ち歩く必要はございません」
「でも、新しい場所でも城が必要じゃろ?」
「必要です」
「では、向こうで建てるのか?」
「そうなります」
「面倒じゃな」
「はい」
「では、やっぱり引っ越すのをやめるか」
「……そうしていただけると助かります」
「虎次郎」
「はい」
「引っ越しは嫌か?」
「嫌というより……」
「何じゃ?」
「姫様が本気で城を運ぼうとなさるのが心配でございます」
「大丈夫じゃ」
「何がでございますか?」
「虎次郎がいる」
「……」
「何でもできるからのう」
「そういう問題ではございません」
「では、何でもできる虎次郎なら城も運べる?」
「できません」
「残念じゃ」
「姫様」
「なんじゃ?」
「そもそも、どこへ引っ越すおつもりだったのですか?」
「知らん」
「……」
「まだ決めておらん」
「では、何の荷造りなのでございますか?」
「荷造りの練習じゃ」
「練習?」
「うむ」
「何のための?」
「いつか必要になるかもしれん」
「……」
「虎次郎」
「はい」
「風呂敷、もう一枚持ってきてくれ」
「何を入れるのでございますか?」
「城」
「入りません」
「むう」
「入りません」
「では、屋根だけ」
「入りません」
「小さくすれば?」
「屋根は小さくなりません」
「虎次郎は融通が利かぬのう」
「姫様の発想が大きすぎるのでございます」




