「返事」
城の広間。
きらりは文机の上に置かれた書状を眺めていた。
「虎次郎」
「はい、姫様」
「また四の国からじゃ」
「何と書いてございますか?」
「早く来い、と」
「……またでございますか」
「うむ」
「何と返されますか?」
「明日行く、と書いておけ」
虎次郎の手が止まる。
「……本当に行かれるのですか?」
「行くとは言っておらん」
「ですが、『明日行く』と返事を……」
「返事をするだけじゃ」
「四の国は、そうは受け取らないと思います」
「では、明日行くことにするか?」
「急でございます」
「明日なら急ではないのか?」
「そういう意味ではございません」
「では、いつ行けばよい?」
「少なくとも、準備をしてからでございます」
「準備とは?」
「兵、食糧、馬、それから道中の手配など」
「面倒じゃな」
「国を動かすのでございますから」
「では、やめよう」
「姫様……」
「虎次郎」
「はい」
「四の国は、いつも急かしてくるのう」
「はい」
「急いで来い」
「はい」
「援軍を出せ」
「はい」
「早く返事をしろ」
「はい」
「では、こちらも急いで返事をしよう」
「何と?」
「明日行く」
「……」
「どうした?」
「姫様」
「なんじゃ?」
「本当に行かれるおつもりは?」
「ない」
「では、なぜそのような返事を?」
「向こうも急かしておるから、こちらも急いで返事をしてやろうと思ってな」
「なるほど……」
「礼儀じゃ」
「そうでございますね」
「では書いておけ」
「承知いたしました」
虎次郎は筆を取る。
「『明日、参ります』でよろしいですか?」
「うむ」
「本当に送ってよろしいので?」
「よい」
「……後で困るのは私でございますが」
「なぜじゃ?」
「四の国から、明日になれば『まだ来ないのか』と書状が来ます」
「では、その返事を書けばよい」
「何と?」
「『明日行く予定でした』」
「いつの明日でございますか?」
「そこまでは書かんでよい」
「……姫様」
「なんじゃ?」
「四の国より、姫様のほうがよほど陰湿ではございませんか?」
「失礼じゃな」
「申し訳ございません」
「私はただ、返事をしているだけじゃ」
「はい」
「ちゃんと返事をしておるぞ」
「……そうでございますね」
「だから怒られる筋合いはない」
「そこだけは正しいと思います」
「では、送っておくれ」
「承知いたしました」
「明日行く、と」
「はい」
「虎次郎」
「はい?」
「明日は何をする?」
「……何も決めておりません」
「では、明日は何もしない日じゃな」
「姫様……」
「冗談じゃ」
「……本当にございますか?」
「たぶん」
「不安でございます」




