「行く」
城の広間。
きらりは文机に肘をつき、しばらく考え込んでいた。
向かいでは虎次郎が書状を整理している。
「虎次郎」
「はい、姫様」
「では、そろそろ行くか」
虎次郎の手が止まる。
「……ようやくお決めになりましたか」
「うむ」
「中の国へ向かわれるのですね?」
「いや」
「では、四の国へ?」
「違う」
「……どちらへ?」
「買い物じゃ」
「…………」
「何じゃ?」
「戦の話だと思っておりました」
「戦?」
「はい」
「戦なら、まだ行かんぞ」
「では、なぜ『そろそろ行く』と?」
「買い物に行くからじゃ」
「そうでございますか……」
「何か問題でも?」
「いえ」
「では、行こう」
「何を買われるので?」
「団子」
「団子でございますか?」
「うむ」
「わざわざ城を出て?」
「食べたいからのう」
「でしたら、城で作らせればよろしいのでは?」
「それでは駄目じゃ」
「なぜでございますか?」
「店の団子が食べたい」
「……なるほど」
「それに、最近忙しかったからな」
「姫様もそういうことを考えるのですね」
「私を何だと思っておる?」
「国の行く末より団子を優先する方かと」
「失礼じゃな」
「申し訳ございません」
「では虎次郎」
「はい」
「行くぞ」
「承知いたしました」
「どの道から行く?」
「城下町へ向かう道でございます」
「東か?」
「南でございます」
「そうか」
「姫様」
「なんじゃ?」
「戦の進路と間違えないでください」
「分かっておる」
「本当でございますか?」
「今日は団子じゃ」
「……安心いたしました」
「ところで虎次郎」
「はい」
「団子を買ったら、東の国の戦況を聞こう」
「結局、気になるのですね」
「少しくらいはのう」
「では、帰ってからにいたしましょう」
「うむ」
「では参りましょう」
「虎次郎」
「はい?」
「財布を持ってくれ」
「……はい」
「私は姫だからな」
「それは理由になっておりますか?」
「姫は財布を持たぬものじゃ」
「初めて聞きました」
「今決めた」
「左様でございますか」
「うむ」
「では、参りましょう」
「団子じゃ!」
「はい、団子でございます」
「戦ではないぞ!」
「承知しております」




