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リングの外では、まだ本当の自分になれていない。  作者: 黒黒の白描 / 黒ノ橙
第四章 水面の下、人の声は遠ざかる
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番外編二 父母も、かつては若かった

 1995年――バブル経済が崩壊し、長期的な低迷期に入っていた。しかしファッション誌の世界では、なおも新たな潮流を生み出そうとする者たちがいた。


 颯音社が出版する『Y-Passion』というファッション誌は、まさに全国を席巻していた。この雑誌は別名『世紀末狂騒』とも呼ばれ、2001年、泉優社が後を引き継いで創刊した新雑誌『Z-Passion』は、またの名を『新千年狂騒』といった。


 颯音社は常に時代の先端に立ち、流行を追うのではなく、人々に自己を見つめ直させる視覚言語を生み出していた。しかし、わずか数年後、かつて先鋭的だった要素は、いつの間にか人々の日常の装いの中に溶け込んでいった。


 この年、斎藤陽子は15歳で、道端でスカウトされ、『Y-Passion』のファッションモデルとなった。小笠原健一郎は19歳で、写真家の夢を追って上京し、颯音社に入社してアシスタントフォトグラファーとなった。


 当時、『Y-Passion』の編集長兼颯音社社長である菊川章男は、ファッション誌界でも最年少クラスの経営者として知られていた。


 彼のファッションに対する理念は、「潮流は発見されるものではなく、作り出されるものだ」というものだった。この言葉は常に社内の壁に貼られ、若い編集者たちの信条として語り継がれていた。


 斎藤陽子は一人で雑誌社のオフィスにいて、壁の標語と、壁に掛けられたモデル写真を見ていた。その瞬間、彼女は、それらがすぐ手の届くところにあるような、それでいて、そこへたどり着くにはまだ長い道のりがあるような、そんな感覚を覚えた。


 菊川章男がドアを押し開けて入ってきた時、口元には笑みを浮かべ、手には刷り上がったばかりの見本誌を持ち、まるで芸術作品を披露するかのように笑みを浮かべていた。


「うちの雑誌、読んだことある?」彼の口調は挨拶のようだったが、視線が彼女に落ちた時、そこには確認するような意味合いが込められていた。


「はい。」陽子は少し緊張して答えた。「お小遣いを貯めて何号か買いました。毎号ではないですけど、買えた時は何度も何度もめくりました。」


 菊川はうなずき、部屋に入り、手にした見本誌を机の上に置き、陽子を数秒間じろじろと見てから、笑って言った。


「じゃあ、見るのは好きなんだ。自分も載ってみたいと思う?」


「……載ってみたいです。」彼女は正直に答えた。


 菊川はすぐには応えず、振り返り、それからゆっくりと彼女をもう一度眺めた。まるで彼女が雑誌社が求める新人モデルの基準に合っているかを確認するかのように。そして机に戻り、あの見本誌を手に取り、あるページを開いて彼女の前に差し出した。


「週末に撮影がある。時間があれば、来てみるといい。」


「はい!」陽子は少し興奮して答え、声が思わず普段より一段高くなった。


 その後、彼女は求められるままに身長、体重などの基本情報を記入した。


 その夜、陽子は何度も寝返りを打って眠れず、いっそ起き上がり、引き出しからあの『Y-Passion』を取り出し、真ん中あたりのページを開いて、長い間見つめた。彼女はレイアウトを見ているのではなく、モデルの位置を見て、そこに自分がライトの下に立っている姿を想像していた――あんな場所に立てるだろうか? 確信はなかった。しかし次のページをめくる時、彼女はとてもゆっくりとめくった。まるで一歩一歩をゆっくりと進め、その可能性を自分の掌の中にもう少し留めておくかのように。


 週末の早朝、陽子は颯音社に着いた。受付が彼女を廊下へと案内し、撮影スタジオへと導いた。


 スタジオは広く、床は灰白色で、天井には照明器具が吊り下げられていた。壁際には一列の服が掛けられていた。ジャケット、スカート、シャツ、長ズボン。脇の棚には当時流行していた厚底靴が数足と、当時まだ目新しかったニーハイブーツが数足置かれていた。壁の隅に近い場所には、布のカーテンで囲まれた小さな着替えスペースがあった。


 15歳の少女にとって、これらの衣装はすでに一つの衝撃だった。


 スカウト兼フォトグラファーの川口康樹は幕のそばに立ち、両手でファインダーの形を作り、撮影アングルを測っていた。彼は陽子を横目で見て、スタジオの隅に向かって声をかけた。


「小笠原、用意してある服を持ってきてくれ。」


 健一郎は返事をし、棚からセットされた服を取り出した――白いシャツ、濃い灰色のスカート、そして厚底のブーツ。彼は陽子の前に歩み寄り、手渡すのではなく、まず服の向きを確認してから、畳まれた衣類を彼女の隣の空いた椅子の上に置いた。


「着替えはあっちだ。カーテンを閉めればいい。」彼はそう言い、体を横に向けて二歩後退し、彼女に背を向けて立った。「準備ができたら呼んでくれ。」


 陽子は一瞬戸惑い、手元の服を見て、彼の背を向けた横顔を見てから、服を抱えて着替えスペースに入った。カーテンを閉める音はとても軽く、彼女は自分がまだ緊張していることを悟られたくないかのようだった。


 健一郎はその場に立ち、振り返らなかった。彼は壁に貼られた『Y-Passion』の前号のポスターを長い間見つめていた。モデルが海辺に立ち、髪が風に吹かれて顔の半分を覆っていた。彼は実はそのポスターを見ていたのではなく、ただ背を向けている方が適切だと思っただけだった。振り返って確認する必要も、余計な説明も必要ない。まるで他人が着替えている時に、誤解を生まない場所に視線を留めることに慣れているかのように。


「着替えました。」カーテンの後ろから陽子の声が聞こえた。


 健一郎はそれから振り返った。陽子は着替えスペースの入り口に立ち、白いシャツの襟元が少し曲がっていたが、彼女自身はまだ気づいていないようだった。彼女はあの厚底ブーツを履いておらず、おそらく慣れないのだろう、素足で灰白色の床に立ち、自分のつま先を見下ろしていた。評価を待っているかのように、あるいはどこに立てばいいのか分からないかのように。


 健一郎は彼女の服装を評価せず、ただ彼女の襟元を指さした。


「襟は起こした方がいい。」


 陽子は手を伸ばして襟元を触り、うつむいて整えた。健一郎はすでに振り返り、川口の方へと歩いていた。照明の位置を確認するかのように、陽子に視線を向けずに済む時間を作って。


 彼女はうつむいてあの厚底ブーツを見た。濃い茶色の甲皮、本を一冊踏んでいるかのように厚い靴底、丸くて四角い靴先、側面には銀色のバックルが一列。彼女は街でこのブーツを履いている人を見たことがあったし、密かに羨ましくも思っていた。それを履いている人は背が高く見え、歩みがしっかりしていて、自分がどこへ行くべきかを知っているかのようだった。しかし彼女はよく分かっていた。自分はまだ15歳で、履いてもそのようには見えないだろうと。


 彼女は少し迷ったが、やはり腰をかがめてブーツを手に取り、左右を見た。着替えスペースには椅子がなく、周囲の布のカーテンも壁に貼り付いていない。掴まる場所がなかった。彼女はブーツを抱えたまましばらく立ち、それからカーテンをめくって半分だけ顔を出した。


「あの……小笠原さん、ちょっと手伝ってもらえますか?」


 健一郎は再び振り返り、顔を出した陽子を見た。彼女は自分の肩を指さし、次に彼の肩を指さした。


「ちょっと掴まればいいだけなので。」


 健一郎は歩み寄り、カーテンの外側に立ち、体を横に向け、肩を着替えスペースの方向に向けた。


 陽子はカーテンの後ろから左手を伸ばし、彼の右肩に手を置いた。彼女の手はとても軽く、力を入れるべきかどうか分からなかった。健一郎は動かず、振り返りもしなかった。彼は肩の上のその手が一瞬止まり、それから重心を調整する時に少し力を強めたのを感じた。まるでまだ完全に根を張っていない小さな木が、短い支えを借りて、自分の着地できる場所を見つけたかのように。


 陽子は健一郎の肩に掴まりながら、まず左足を上げ、つま先をブーツの口に入れた。ブーツの口は少しきつく、革がすねに沿って包み込まれ、かすかな摩擦音を立てた。彼女は足首を左右にひねってから、かかとを底まで踏み込み、右足に替える時は少し速かった。履き終えると、彼女は二度床を踏んでみて、またしばらくうつむいて見た。靴先は丸くふっくらとし、バックルは銀色に光っていた。


 その手が彼の肩に残した温度は、まるで寄り添うでも離れるでもない印のように、そこにそっと落ち、彼女が手を離した後よりも長い一瞬、留まっていた。


「……できました。」


 健一郎は振り返らなかったが、その手が肩から離れる時、布地がそっと持ち上げられ、また元の位置に戻るのを感じた。その手の重さはとても軽く、ほとんど存在しないかのようだった。しかし彼ははっきりと覚えていた。彼女が彼の肩に掴まった時、指先がわずかに強く締まったことを。まるでこの動作が妥当かどうか、まだ確信が持てないかのように。


 彼は「うん」と応え、それから再び顔を向けた。彼はすぐには離れなかった。何かを待っているからではなく、すぐに振り返ると、その動作が平凡すぎるように見えると思っただけだった。彼はそこに立ち、幕の皺に視線を落としていた。彼女に観察されずに済む時間を作り、自分自身もまだ確認できていないあの触感を消化するかのように。


 陽子はブーツを履き終えると、体をまっすぐにした。彼女はあの古びた鏡の前に歩み寄り、まず横を向いてスカートの裾の位置を見て、それから正面に戻った。


 彼女は見慣れない自分の姿を見た。白いシャツと濃い灰色のスカートを着て、襟元はきちんとしており、あの厚底ブーツが彼女を一段高く持ち上げ、体の線が引き伸ばされていた。同じ顔なのに、印象の中の自分とは違っていた。彼女は少し首を傾けて自分の横顔を見て、また正面に戻った。まるでこの新しい輪郭にまだ慣れようとしているかのように。


「まだ?」川口康樹が幕の向こうから小さな声で呼んだ。


「はい!」健一郎が応え、体を半分ずらして、陽子を先に歩かせた。


 川口康樹は幕の前に立ち、二歩後退し、手でファインダーの位置を確かめた。彼は陽子を一瞥し、それから照明の方向を確認し、立ち位置と重心についての指示をいくつか口にした。かつて他のモデルたちにも何度も言ってきたような言葉で、口調は穏やかで、言葉は簡潔だった。まるで一歩一歩がすでに何度も分解されていて、ただ従えばいいだけのように。


 しかし陽子には全く理解できなかった。彼女はその場に立ち尽くし、肩を彼が言った方向に向けようとし、また姿勢を変えてみたが、腕全体の方向がずれてしまった。彼女の動きは固く、まるで固定されているかのようで、動くことも、リラックスすることもできなかった。


 川口はしばらく見て、カメラを置き、健一郎の方に顎をしゃくった。「小笠原、行って位置を調整してやってくれ。」


 健一郎はゆっくりと歩み寄り、陽子の前で止まった。すぐには手を伸ばさず、彼女の立ち姿勢を見て、視線を肩から肘へと移し、それから言った。


「肩はもう少しリラックスしていい。」口調はできるだけ穏やかに保ち、視線も彼女の顔を避けていた。まるでこのことを、余計な説明を必要としない事柄として扱おうとしているかのように。


 彼女は肩を沈めようとした。動作の幅はとても小さく、間違えるのを恐れているかのようだった。


 彼は手を伸ばして彼女の腕を指さした。


「ここはもう少し外に。」


 手のひらが何気なく彼女の手首の内側に触れた。感触はやや冷たく、陽子の肩が明らかに強張った。彼女は避けなかったが、動きもしなかった。


「腕はこうした方が自然だ。」彼は半歩後退し、さらに付け加えた。「これは君の問題じゃない。ゆっくりでいい。」


 陽子はその場に立ち、うつむいて自分の手首を見て、それから顔を上げて彼を一瞥した。彼女の顔は燃え上がるように赤くなり、耳から首の皮膚まで赤みを帯びていた。


 健一郎は視線をそらし、自分も彼女をずっと見なくて済む場所を探しているかのように、それから川口のそばに戻った。まるで自分の役目を終えたかのように。


 川口は顔を上げず、カメラのパラメータを調整しながら、何気なく言った。


「顔が赤くなってるな。そういう状態がちょうどいい。」


 陽子は答えず、ただうつむいて、さっき彼に触れられた自分の手を見つめ、握っては離し、あの感触がまだそこにあるかを確認するかのようだった。その感触がどれだけ残るかは分からなかったが、少なくとも今は、まだその感覚を覚えていた。健一郎はうつむいて手元のカメラバッグを整理し、ファスナーを上げては下げ、それを二度繰り返した。彼も顔を上げなかった。その日の光はとても良く、あまりに明るすぎると思うほどだった。まるでちょうどいい露出で、すべてをはっきりと目の前に現すかのように。まだ避けきれない感情も、一緒にレンズの端に収められていた。


 彼女はその日何を撮ったのか、何着の服に着替えたのか、どんなポーズをとったのか、全く覚えていなかった。覚えているのは、照明が当たった時に少し眩しかったこと、川口が幕の後ろで何か言い、彼女がそれに従ったことだけだった。しかし具体的に何だったかはもう思い出せなかった。ただあの感触だけがまだ手首に残っていた。まるでまだめくられていない本のページのように、誰にも見られる必要のない隅に留まっていた。


 まもなくして、彼女は出版社から見本誌を受け取った。


 見本誌を開くと、忘れていた画面が次々と紙面に広がっていた。一枚は白いキャミソールドレスで、素足で灰白色の床に立ち、手に青いシルクのスカーフを握っている。もう一枚は軍緑色のジャケットに白いショートトップス、裾が絞られ、腰のラインが覗いている。他にも何枚かあり、順番も覚えていないし、何着の服に着替えたかも思い出せなかった。彼女はうつむいてそのページをめくり終え、雑誌を閉じ、机の上に戻した。


 それからの数週間の週末、陽子は撮影スタジオに通った。菊川社長も陽子を気に入り、より多くの撮影を手配し始めた。彼女は徐々に照明の位置、レンズの方向に慣れ、シャッター音の合間に自分のリズムを見つけることを覚えていった。


 黒いタイトなニットに赤いレザーのショートパンツ、そしてニーハイブーツ――彼女はそれを着て鏡の前に立つと、いつも他人の服を盗み着したかのように感じ、どう見ても自分には見えなかった。


 ヒョウ柄のショートジャケットにタイトなジーンズ、首には細いシルクのスカーフ――彼女はいくつかポーズをとってみたが、スカーフが首を締め付ける感じがして、どう首を回せばいいのか、どこに目を向ければいいのか分からなかった。


 ワインレッドのラッカー調のタイトドレス、長さは膝の上――彼女は幕の前に立つと、一歩一歩がとても慎重で、動作が大きすぎれば肌が露出するのが怖く、小さすぎれば硬く見えるのが怖かった。


 薄灰色のショートレザージャケットに黒いプリーツのミニスカート、中には白いショートトップス、足にはあのニーハイブーツ……


 彼女はどれも着たことがあり、どれもレンズの前に披露したことがあった。しかし鏡の中のあの少女は、いつも彼女に違和感を覚えさせた。


 彼女はまだこれらの服を着て歩く方法を見つけていなかったし、ましてや自分自身の方法など見つかっていなかった。


 彼女はこれが何度目のこの部屋への出入りか、もう数えきれなくなっていた。


 冬が来ていた。窓の外は暗くなるのが早く、陽子が撮影スタジオのドアを押し開けると、暖房が顔に押し寄せてきた。


 しかし今日のスタジオには一人しかいなかった。菊川社長が幕の前に立ち、手にした見本誌をめくっていた。ドアの音を聞いて顔を上げ、雑誌を閉じて机の上に置いた。


「陽子、来たか。」彼の口調はいつもと同じで、彼女が仕事の状態に入ったことを確認するかのようだった。


「社長! え? 川口さんたちは今日いないんですか?」


 彼は何も言わず、ただまっすぐに壁際へと歩いていった。そこにはすでに一列の服が掛けられていた。以前とは少し違い、色はより薄く、素材はより薄く、いくつかは襟元がとても低く、またいくつかはほとんどキャミソールやベストのスタイルだった。


 陽子は入り口に立ち、その服の列を一瞥し、それから菊川を見た。


「これは……?」


「前号までのファッション企画の反響が良かった。読者は君のスタイルがとても気に入っている。」菊川はそう言い、その中の薄い色のキャミソールドレスを手に取り、広げてみた。「ただ、『暑苦しい』感じがする、夏の雰囲気がまだ足りないと言う声があってね。だから今回は夏の特集を撮ることにした。」


 陽子は一瞬戸惑った。


「でも今……冬ですよね?」


「関係ない。先に撮っておいて、夏になったら出せばいい。」彼はそのキャミソールドレスを棚に戻し、口調は変わらなかった。「時間は待ってくれない。この号の見本はもう組み始めている。」


 陽子は何も言わなかった。彼女はその服を見つめ、生地がとても薄いことを感じ取っていたし、着たらどれだけ肌が露出するかも分かっていた。彼女は手を伸ばしてその一つ肩ひもに触れた。とても軽く、布地越しに冬が指先に留まっているのを感じるかのようだった。以前、川口がいた時は、彼はいつもまず彼女の状態を確認し、「寒くないか」とか「大丈夫か」と聞いてくれた。しかし今日はスタジオには菊川だけがいて、数歩の距離を隔てて、その服の列のそばに立ち、余計な動作もなく、急かすこともなく、ただその服の列のそばに立っていた。まるで、彼女が自分からそこへ歩み寄るのを待っているかのように。


「師匠、今日は撮影の予定はないんですか?」小笠原健一郎は助手席に座りながら尋ねた。


 川口康樹は煙草をくわえ、視線を窓の外から戻し、片手で煙草を挟んで外し、煙を吐き出した。


「ないはずだ。」川口はスケジュール表を一瞥した。「今日は会社から撮影の予定を入れられていないはずだ。」


「陽子は? 彼女、今日撮影が入ってなかったっけ?」健一郎は体を起こした。


「彼女も今日入ってたのか?」川口は一瞬固まった。


「先週彼女が言ってました。今日は夏の特集を撮るって……」健一郎は話しながら、声が低くなっていった。何かおかしいことに気づいたかのように。「……彼女、今日会社に行ってる。」


「今日の陽子の撮影、誰が担当だ?」


「……今日は菊川社長しかいないはずです。」


 川口は数秒沈黙し、それから交差点でハンドルを切った。車の向きが反転し、来た方向へと向かっていった。速度は先ほどより少し速かった。


「菊川が一人であのビルに……」川口は低い声で繰り返し、それからアクセルを踏み込んだ。タイヤが路面を擦って短い摩擦音を立て、車体が加速していった。


 同じ時刻、撮影スタジオでは、陽子はすでに着替え終えていた。とても薄い白いキャミソールドレス、長さは膝の上、肩ひもはいつ滑り落ちてもおかしくないほど細く、彼女は幕の前に立ち、両手を体の横に垂らし、掌をわずかに握りしめていた。どこに置けばいいのか分からないかのように。菊川はカメラを置き、持ち上げる気配もなく、彼女の方へ二歩歩み寄った。


「姿勢がまだ少し硬いな。」彼は言った。「俺が調整してやる。」


 彼の手が彼女の肩に落ち、肩のラインに沿って下へと滑っていった。陽子の体は明らかに強張り、半歩後退したが、背後は壁だった。彼女の手は掴まれ、振りほどけなかった。


「このビルには、今俺たち二人しかいない。」菊川の口調は依然として穏やかだった。「他の連中は今日は仕事の予定がない。」


 彼の手は彼女の手首に止まり、もう一方の手が彼女の腰の側に近づいていた。陽子は顔をそらし、視線をドアの方向に落とした。あのドアが誰かに押し開けられるのを待っているかのように。しかし彼女は知っていた。あのドアは今日は開かないだろう。


 彼女にはもう逃げ場がなかった。背後には冷たい壁だけがあった。


 川口の車が会社の入り口に停まると、タイヤが路面を擦って短い音を立てた。健一郎はシートベルトを外し、ドアを押し開け、足が地面に着いた時、敷居につまずきそうになった。彼は重心を整え、まっすぐに入り口へと走った。


「ちょっと待ってくれよ!」


 川口は後部座席から新型のデジタルビデオカメラを取り出し、後を追った。健一郎は廊下の角で止まり、振り返って彼を見た。川口は彼のそばに歩み寄り、微かに顎を上げて、先に進むよう合図した。


 陽子は猛然とその手を振りほどき、振り返ってドアの方へ走った。しかし彼女の動作はあまりに急で、ドレスの裾全体が照明スタンドの支柱に引っかかり、よろめいた。足首をひねり、重心を突然失い、膝が激しく床に打ちつけられた。


 菊川の足音はがらんとしたスタジオに異様にはっきりと響いた。一歩一歩がパズルのピースのように、この空間全体を彼女が逃げられない孤島へと組み立て、彼女とあのドアの距離をどんどん遠ざけていくかのようだった。


 ドアが猛然と押し開けられ、鈍い音がした。健一郎がスタジオに飛び込み、最初に目にしたのは、陽子が壁の隅に縮こまり、ドレスの裾が床に広がり、膝の擦りむいた皮膚、彼女の全身が限界まで張り詰めた弦のように硬直している姿だった。


 菊川が振り返った。


 健一郎は彼を見なかった。彼は早足で陽子のそばに歩み寄り、自分の上着を脱ぎ、有無を言わさず彼女の肩に掛け、露出した肌を粗く覆った。


 彼は陽子と菊川の間に立ちはだかり、一言も言わなかった。しかし陽子の肩は明らかに緩んだ。あの圧迫感が遮断されたかのように。少なくとも今、彼女は菊川に直接向き合う必要はなかった。


 川口は入り口に立ち、あの新型カメラを構え、レンズを部屋の中のすべてにしっかりと向けていた。彼の指は動かず、どのボタンも押さず、ただランプを点灯させていた。赤い表示灯が点灯し、無言の振り子のように、時間を刻み、菊川が先ほど一瞬止まったあの数秒間を刻んでいた。


 菊川はゆっくりと手を下ろし、入り口のレンズを一瞥し、陽子の前にしゃがむ健一郎を一瞥し、それからあの穏やかな、事務的な口調に戻った。


「勝手に撮るな。俺は何もしていない、ただ動作を指導しただけだ。」彼は顔を隠し、それから二人を回り込んで外へと歩いていった。まるでこの件はもう終わったかのように。


 陽子はうつむき、両手で肩の上の上着の襟を握りしめ、顔を襟元に埋めていた。顔を上げなかったが、彼女はしっかりと握りしめていた。あの上着が確かにまだ存在することを確認するかのように、あの足音が確かに遠ざかったことを確認するかのように。低い声が衣類の下からくぐもって漏れ出た。長い間押し込められていた何かがようやく解放されたかのように。彼女は泣かなかった。


 健一郎は彼女の前にしゃがみ、彼女に触れもせず、何も言わず、ただ彼女の呼吸がゆっくりと落ち着くのを待っていた。


 川口はカメラを下ろし、表示灯が消えた。彼は健一郎を一瞥し、陽子を一瞥し、カメラを再び胸に掛け、何も言わず、ただ一歩後退し、残りの時間を彼らに委ねるかのようだった。


 彼らはビルの入り口の階段に座った。陽子は真ん中に座り、健一郎は彼女の左に座り、川口は少し離れた階段の下に立ち、煙草を吸い、もう一方の手でそのカメラをしっかりと握りしめていた。


 誰も話さなかったが、その沈黙は重くなく、三人がそれぞれ何かを消化しているかのようだった。


 陽子はずっと肩の上の上着の襟を握りしめ、指の関節は白くなり、呼吸は浅かった。しばらくして、彼女はうつむいて自分の膝を見た。少し擦りむけ、細かい血の粒が滲んでいた。それなのに、さっきまで痛みを感じていなかった。


 健一郎は彼女の視線を追ってその傷を見た。


 彼は何も言わず、ポケットからティッシュの袋を取り出し、一枚引き出して二つに折り、彼女の手元に差し出した。彼は自分から彼女の膝に触れることはせず、ただティッシュを彼女の掌に置き、それから手を引いた。


 陽子はそのティッシュを握りしめ、すぐには使わなかった。彼女はしばらくそのティッシュを見つめ、それから突然口を開いた。声はとても軽く、独り言のようだった。


「彼が言ったこと……最初は本当に私を指導してくれているんだと思ってた。」


 健一郎は何も言わなかったが、膝の上に置いた彼の手が、そっと握られては離れた。


 陽子は顔をそらし、健一郎を一瞥した。彼女の目は赤く、その数十分の間に、彼女の中で何かが少しだけ整理されていた。残っていたのは疲れと、言い表せない悔しさだけだった。


「どうして戻ってきたの?」彼女は尋ねた。健一郎に問いかけたが、彼を見ずに、自分の膝を見ていた。


 健一郎は数秒沈黙し、それから言った。


「君は今日、撮影があったから。」


 陽子は一瞬戸惑った。こんなに単純な答えだとは思わなかったかのように。


 彼はさらに付け加えた。口調は穏やかで、わざと強調もせず、曖昧でもなかった。


「だから来た。」


 陽子はうつむき、そのティッシュをゆっくりと広げ、膝の傷の上に被せた。動作はとても優しく、このティッシュで何を防げるのかは分からなかったが、少なくとも今、その傷は覆われていた。


 川口は煙草の火を消し、振り返って二人を見て、それから一言言った。事実を確認するかのような口調だった。


「菊川の件は、このままにはできない。俺の手元にはまだいくつかある。今日撮ったものじゃない、以前からずっと保管していたものだ。これを提出すれば、彼は簡単には逃げられない。」


 陽子は上着の襟を握る指をさらに強くしたが、しばらくして、ゆっくりとうなずいた。


「私はここでフォトグラファーを続けるつもりはない。」


「じゃあ、フォトグラファーをやめたら……何をするつもりなの?」陽子は小声で尋ねた。


「北海道に行くつもりだ。父親の旅行会社を手伝うために。」


「じゃあ……私も一緒に北海道に行く。」陽子は言い終えてから、自分が言ったことのおかしさに気づき、頬が再び赤くなった。「あ……あ……」


「君はまだ学校に通わなきゃいけないだろ!」


「そうだった! ああ……じゃ、じゃあ……健一郎さん、必ず待っていてくださいね!」


 そしてまさにその夜、二人の感情は静かに深まっていった。


 颯音社を離れて間もなく、事態は彼らが予想しなかった方向へと進み始めた。


 川口は以前から菊川が密かに何かをやっていることに気づいていたが、十分な証拠がなかった。


 彼はあのカメラに保存された映像を完全な記録として整理し、警察に提出した。


 川口は陽子をとても大切に思い、実の娘のように接していた。だからこそ菊川の獣のような行為に激怒したが、その裏にもっと暗い秘密が隠されているとは思わなかった。


 ある日の午後、陽子の自宅に警察から電話があった。署に来て、事情を話してほしいというものだった。彼女は受話器を握りしめて話を聞き終え、置いてから、椅子に長い間座っていた。それから健一郎に電話をかけた。


 健一郎は電話の向こうで二秒沈黙し、それから言った。


「一緒に行くよ。」


 供述の過程は彼女が予想したより長かった。女性警官は細かく尋ね、最初の撮影の時間から、菊川と二人きりで過ごしたあらゆる場面まで、陽子は途切れ途切れに思い出していった。最後の日のことは、全く思い出したくなかったし、自分自身の記憶としても振り返りたくなかった。


 その日、菊川章男はオフィスで連行された。当時現場にいた者の話によると、彼は表情を変えず、この日が来ることを予想していたかのようだった。しかし廊下の雑誌の表紙で埋め尽くされた壁を通り過ぎる時、彼は一瞬立ち止まり、あの『Y-Passion』のポスターを一瞥した――それは陽子が初めて表紙に載った号だった。彼は何も言わず、そのまま歩き続けた。


 モデルへのわいせつ行為、売春の組織化、会社資金の横領。これらのことは多くの記者が颯音社のビルの前に詰めかける原因となった――川口が提供した資料で警察は新たな突破口を見つけていた――彼は通用口から出入りし、いかなる取材も受けなかった。


 陽子はコンビニでその新聞を見た。彼女は棚の前に立ち、新聞スタンドの小さな見出しを長い間見つめ、振り返って外に出た。健一郎が入り口で待っており、彼女が出てくるのを見て、手に持っていた温かい飲み物を渡した。陽子はそれを受け取り、掌に握りしめ、温度が掌から少しずつ伝わってきた。


「終わった。」彼女は言った。


 健一郎は何も言わなかった。彼はただ彼女のそばに立ち、一緒に通りの向かい側で芽吹き始めた木を見ていた。まるで「終わった」という二文字を時間に委ねるかのように。


 颯音社が解体した後、川口康樹は新たに会社を設立し、泉優社と改名し、大規模な改革を行った。


 その年の秋、健一郎は東京を離れ、北海道へと向かった。彼は陽子に一枚の葉書を残し、そこには一つの住所が書かれていた。


 三年後、陽子は高校を卒業し、東京での全ての手続きを終えた後、十月に北海道行きの列車に乗った。


 彼女はそれほど大きくないスーツケースを一つ提げ、十数時間の夜行列車に乗り、到着したのはまだ早朝だった。ホームは静かで、空気は冷たく、息を吐くと白い霧が見えた。


 駅のベンチに座り、夜明けを待った。


 健一郎が自転車で駆けつけたのは、それから三十分後だった。彼女がベンチに座っているのを見た時、ハンドルがぐらつき、ほとんどブレーキが間に合わなかった。彼は自転車を降り、彼女の前に立ち、吐く白い息が顔の半分を覆っていた。


「寒くないか!」


「うん、寒くない!」


「あのブーツ、履いてきたんだな。」


 陽子はうつむいて自分の足を見た。あの厚底ブーツはもう長く履いていて、靴先の革は少し擦り切れ、バックルにも細かい傷がいくつか付いていたが、彼女は出発前にきれいに磨いていた。


 陽子が前に歩き、健一郎が後ろを歩いた。二人の間には少し距離があり、近づかなくても相手がそこにいることが分かるかのようだった。


 それからの時期、陽子は書店で仕事を見つけ、健一郎は毎日早く出て遅く帰る仕事をしていた。彼らは毎日会うわけではなかった。三、四日に一度会うこともあったが、会うたびに自然だった。彼は現像した写真を一冊持ってきて彼女に見せ、彼女は書店に入ったばかりの新刊を彼に勧めた。


 彼らの間で「好き」とか「付き合っている」といった言葉は交わされなかったが、陽子は日が暮れる前に、あの自転車の音が路地の入り口から聞こえてくるのを待つことに慣れていった。


 五年の歳月が彼らを劇的に変えることはなかった。むしろ、二人はゆっくりと互いの生活の一部になっていった。


 2000年1月1日――世界中にとって記念すべきこの日は、小笠原健一郎と斎藤陽子にとっても、人生で最も特別な日だった。


 この日、二人は結婚した。

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