【第7話 もう戻られへん】
店を出る。ネオンが背中に残る。外の空気は少しだけ軽い。
慎二はポケットから携帯を取り出す。短く鳴らす。すぐに出る。
「……どうや」
向こうで風の音がする。
「さっき、こっち戻ってきた」
「どっか行こか」
慎二は短く考える。
「塚本の、いつものとこ行っとくわ。ほな、そこで」
通話が切れる。
◆
店に着くと、慎二はもう一人で始めていた。テーブルの上には、空のジョッキが一つ。健はそれを一瞬見る。
「ごめん、遅なって」
慎二は軽く手を上げる。
「俺もさっきや。何飲む?」
「生もらお」
店員を呼ぶ。慎二は串をつまむ。
「串は適当に言うといたで」
健は軽く頷く。ジョッキが運ばれてくる。泡が少しこぼれる。健は一口飲む。グラスを置く。
「……かなり厳しそうやわ」
慎二は何も言わん。串を一本取る。
「マンションの入口、エレベーター、自転車置き場に駐車場まで。カメラ入っとる」
慎二はゆっくり噛む。
「各階のフロアは……ない」
「エレベーター降りたとこにあるわ」
慎二の手が一瞬止まる。すぐにまた動く。
慎二は串を置く。
「顔やな」
健が顔を上げる。
「覆面か……グラサンとマスクか」
「目立つやろ」
「せやな」
「……車はどうする」
慎二はすぐには答えへん。串を一本取る。ゆっくり噛む。
「いるな。車検間際のやつ、あったやろ」
健が小さく頷く。
「どうせもう切るやつや。ちょうどええな」
慎二はグラスを持つ。
「終わったら」
「すぐ流すわ。アイツらんとこ回しとく。そのまま潰れるやろ」
健は何も言わん。グラスを持つ。ゆっくり飲む。
もう戻られへん。
それだけは分かっていた。




