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【第63話 慎二次第だった】

吹田署。会議室には、重い沈黙が流れていた。誰も無駄な言葉を発さない。机の上の資料だけが、この数日の全てを物語っている。

やがて——班長が口を開く。

「……明日やな」

低い声。

「事情聴取の結果が分かるやろ」

一人が小さく頷く。

「そしたら——金本の令状、とる」

空気が揃う。

「それから」

椅子に体を預ける。

「柄、取るで」

短く言い切る。

「明日、十時から会議始める」

視線が全員に向く。

「それまでに、全部整理しとけ」

「はい」

声が揃う。

終わりは、もうすぐそこだった。

翌朝十時。捜査員たちが、再び会議室に集まる。夜の疲れを引きずったまま、それでも全員の目は覚めていた。

「えー」

班長が口を開く。

「本部の方は、十時から事情聴取が始まっとる」

短く全員を見渡す。

「それまでに、こっちで出来ることやるで」

誰も異論はない。

「車はどうなった」

一人が資料をめくる。

「はい。ヴィッツとマークXですが、松本の話によると、外国人の自動車部品屋へ流したと。電話番号を調べたところ」

少し言いにくそうに続ける。

「ベトナム国籍の……クォン、何たら何たら」

周りから小さく笑いが漏れる。

「長いんで、クォンで」

班長が頷く。

「場所は?」

「岸和田です」

即答。

「今から出ます」

「おう」

短い返事。すぐ次へ進む。

「他は」

別の捜査員が口を開く。

「林ですが……」

少し間を置く。

「やられてますし、仕返しは考えてないんでしょうか」

班長が鼻で笑う。

「考えとるやろ。それがヤクザや」

空気が少し重くなる。

「先に押さえたいな」

誰かが言う。

班長は腕を組む。

「ヤクザもな、昔みたいに手荒なことはリスクある。そこまで追い込まんとは思うけど」

少し視線を落とす。

「……キレたら分からん」

短い沈黙。それぞれが、次にやるべきことを頭の中で整理していた。

大阪府警本部。取調室の空気は、重く張り詰めていた。

「では——当日の流れをもう一度」

刑事が淡々と問いかける。健はゆっくり口を開く。言葉を選びながら、ひとつずつ話し始める。

その時——コンコン、とノック。ドアが開く。別の刑事が顔を出す。

「ちょっとええか」

中の刑事が顔を上げる。

「何や」

「弁護士からや」

短く言う。

「一旦、休憩入れてくれ言うてる」

空気がわずかに変わる。中の刑事が舌打ちをこらえる。

「……まだ始まったとこやぞ」

「向こうも仕事や」

それだけ言って、扉が閉まる。

短い沈黙。

「……休憩入る」

低く言う。椅子が引かれる音。廊下に出る。

「……あの畑とかいう弁護士、何とかならんか」

小声で吐き捨てる。

「無理やろ」

別の刑事が肩をすくめる。

「外で全部コントロールしとる」

取調室に残された健は、ひとり椅子に座っていた。手を組み、視線を落とす。

(……慎二)

胸の奥で名前を呼ぶ。

まだ間に合う。自分が先に来た意味を、あいつなら分かる。

外では——弁護士が静かに時間を見ていた。何も言わず。ただ、待つ。意図的に。ゆっくりと。

健と弁護士は——慎二の"自首"を信じていた。

取調室に戻ると、また同じ問いが繰り返される。

「その時、どこで待機してた?」

健は顔を上げる。

「……近くの路地です」

言葉は出る。だが——頭の中は、別のことで埋まっていた。

(……届いてる)

ポケットの中の携帯。もう触ることはできない。だが、分かっている。

弁護士事務所の住所と電話番号。あの時、送ったメッセージ。

既読は——付いていた。

(見とる)

それだけで、十分だった。

あいつなら分かる。この意味も。このタイミングも。

刑事の声が飛ぶ。

「聞いとるか?」

健はゆっくり顔を上げる。

「……はい」

また話し始める。時間は、ゆっくりと進んでいた。

外では、弁護士が時計を見る。まだ動かない。まだ待てる。

ここから先は——慎二次第だった。

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