【第54話 線は、完全に繋がった】
その日、橋本と高橋は一度、〈マシェリ〉に足を運んでいた。
ガラス張りの店内は明るく、客で賑わっていたが——
「副店長?」
店員が首を振る。
「今日は休みなんです」
橋本は小さく舌打ちを飲み込む。
「……そうか」
それ以上は踏み込まず、店を後にした。
外に出ると、夕方の空気が少しだけ重く感じる。
「タイミング悪いのぉ」
高橋が苦笑する。
「まぁええ」
橋本が歩き出す。
「もう一本、当たる」
向かう先は南方。
◆
そして——夕方。
南方の通りは、昼の熱気をまだ残したまま、夜へと切り替わろうとしていた。
キャバクラ〈フラッシュバック〉の前。橋本と高橋は、壁にもたれて立っている。ネオンはまだ半分だけ。看板の光が、ぼんやりと滲む。
「来るかのぉ」
橋本が小さく呟く。
そのとき——
「あ」
愛子が店の前に現れる。
「昨日はどうも」
橋本が手を上げる。
「あ、昨日の刑事さん」
愛子が笑う。
「あと一つだけ、確認したいことあってな。占いできるお兄さん、いつ頃来たか、覚えてるかな?」
愛子は少し考える。
「んー……一ヶ月ぐらい前やったかな」
橋本がゆっくり頷く。
「そうか……ありがとうな」
「今度は飲みに来るわ」
「待ってますねー」
愛子は店の中へ消えていく。
橋本はその背中を見送る。高橋と目が合う。
一言もいらない。
三週間前の尾行。一ヶ月前の来店。
線は、完全に繋がった。
◆
「報告会まで、ちょっと時間あるな」
橋本が時計を見る。
「担々麺でも食べよか。さっき見つけてん」
細い路地に入った先。赤い暖簾が揺れている。店内は狭く、カウンターだけ。山椒と油の香りが、鼻をつく。
橋本は汁なし担々麺。高橋は普通の担々麺を頼む。
すぐに運ばれてくる。橋本が一口すする。
「……ええやん」
高橋も箸を動かす。
「山椒、効いとるな」
汗がじわりと滲む。しばらく無言で食べる。
橋本が箸を置く。
「汁なしは、腹張らんな」
「もう一杯いけたな」
高橋が笑う。
「あんまり食い過ぎると、会議で寝てまうで」
橋本が鼻で笑う。
「ただでさえ寝不足やのに」
水を飲み干す。
「はよ終わらしたいな」
短い言葉。だが、その先にあるものは——
もう見えていた。




