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【第54話 線は、完全に繋がった】

その日、橋本と高橋は一度、〈マシェリ〉に足を運んでいた。

ガラス張りの店内は明るく、客で賑わっていたが——

「副店長?」

店員が首を振る。

「今日は休みなんです」

橋本は小さく舌打ちを飲み込む。

「……そうか」

それ以上は踏み込まず、店を後にした。

外に出ると、夕方の空気が少しだけ重く感じる。

「タイミング悪いのぉ」

高橋が苦笑する。

「まぁええ」

橋本が歩き出す。

「もう一本、当たる」

向かう先は南方。

そして——夕方。

南方の通りは、昼の熱気をまだ残したまま、夜へと切り替わろうとしていた。

キャバクラ〈フラッシュバック〉の前。橋本と高橋は、壁にもたれて立っている。ネオンはまだ半分だけ。看板の光が、ぼんやりと滲む。

「来るかのぉ」

橋本が小さく呟く。

そのとき——

「あ」

愛子が店の前に現れる。

「昨日はどうも」

橋本が手を上げる。

「あ、昨日の刑事さん」

愛子が笑う。

「あと一つだけ、確認したいことあってな。占いできるお兄さん、いつ頃来たか、覚えてるかな?」

愛子は少し考える。

「んー……一ヶ月ぐらい前やったかな」

橋本がゆっくり頷く。

「そうか……ありがとうな」

「今度は飲みに来るわ」

「待ってますねー」

愛子は店の中へ消えていく。

橋本はその背中を見送る。高橋と目が合う。

一言もいらない。

三週間前の尾行。一ヶ月前の来店。

線は、完全に繋がった。

「報告会まで、ちょっと時間あるな」

橋本が時計を見る。

「担々麺でも食べよか。さっき見つけてん」

細い路地に入った先。赤い暖簾が揺れている。店内は狭く、カウンターだけ。山椒と油の香りが、鼻をつく。

橋本は汁なし担々麺。高橋は普通の担々麺を頼む。

すぐに運ばれてくる。橋本が一口すする。

「……ええやん」

高橋も箸を動かす。

「山椒、効いとるな」

汗がじわりと滲む。しばらく無言で食べる。

橋本が箸を置く。

「汁なしは、腹張らんな」

「もう一杯いけたな」

高橋が笑う。

「あんまり食い過ぎると、会議で寝てまうで」

橋本が鼻で笑う。

「ただでさえ寝不足やのに」

水を飲み干す。

「はよ終わらしたいな」

短い言葉。だが、その先にあるものは——

もう見えていた。

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