【第53話 行動に変わる】
翌朝九時。会議室に、昨日とは違う空気が流れていた。
「ほな、始めるぞ」
本部長が資料を机に置く。
「……その前にや」
全員の視線が上がる。
「おもろい情報を、四課から仕入れた」
資料を指で叩く。
「野里の林のコレや。尼のホステスや」
小さくざわつく。
「たぶん、狙われたんやろ。そこで林と出くわしたか、何かあったんや」
一人の刑事が口を挟む。
「じゃあ……林は、トクリュウの指示役ではないということですか?」
視線が本部長に集まる。本部長は首を横に振る。
「おそらく違う」
短く言い切る。
「狙われた側や」
空気が静かに変わる。
「林は偶然おったか、巻き込まれたかや。今回の筋とは別や」
誰も反論しない。構図が一気に整理される。
「マンション付近の防犯カメラ、全部当たれ」
「はい」
「よし、各班報告」
「防犯カメラ班です」
「一ヶ月前まで遡りました。グランドエステート周辺で怪しい車五台。本日、所有者に当たります」
「次」
「ファミーユの防犯カメラです。怪しい車二台と、バイク一台。バイクのナンバーは偽造でした」
空気が少し重くなる。
「メーカー・車種は現在解析中です」
「次」
橋本が立ち上がる。
「キャバクラ班です。被害者ミカの客のうち一人。美容室マシェリの副店長。言質は取れてませんが、この後接触します」
一拍。
「それと——犯行日、ミカの誕生日でした」
「おお……」
「それから、南方のキャバクラ。ホステスの誕生日を気にする客がいてたようです。二人組。一人はよく喋る。もう一人は無口。シホも誕生日で、十五日。犯行は日付変わって十六日。誕生日の帰りやと考えられます」
静かに続ける。
「被害額が少ないのは、言えん理由がある可能性が高いです」
会議室が静まり返る。
本部長がゆっくり頷く。
「……揃ってきたな」
低く言う。
「誕生日狙い。二人組。車、バイク」
机を軽く叩く。
「線は繋がっとる」
視線が鋭くなる。
「後は——誰かや」
誰もが分かっていた。その“誰か”が、もう目の前にいることを。
◆
昼を過ぎた頃。
防犯カメラ班の机に、新しい報告が上がる。
「グランドエステート付近の怪しい車、五台のうち——四台は、それぞれ理由がつきました」
資料がめくられる。
「残るは、クラウン一台。所有者と連絡が取れてません」
本部長が短く言う。
「ナンバー、Nシステムに照会かけろ」
「はい」
すぐに端末が動き出す。
数分後。
「出ました」
画面を指で叩く。
「南方から中津へ向かうクラウン。事件の三週間前です」
地図が表示される。そのルートに、もう一つの車が重なる。
「……タクシーですね」
誰かが呟く。
本部長が目を細める。
「追ってるんやないか?」
「……その可能性、高いです」
「タクシーのナンバーも照会かけろ」
「はい」
すぐに照合が始まる。
「同じルートです。同時刻、同方向」
会議室の空気が変わる。
「ということは——」
「タクシーには佐々木が乗っとるな」
誰も否定しない。
本部長が続ける。
「クラウンは尾行や」
線が繋がる。
「キャバクラ班」
橋本が顔を上げる。
「はい」
「その客が、いつ来たか確認してもらえ」
「分かりました」
橋本はすぐに立ち上がる。
車が、証拠から“行動”に変わる。
捜査は、もう止まらない。




