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【第52話 全てが、繋がった】

「すんません」

店内に声をかける。すぐに奥から、黒服の男が出てくる。

「いらっしゃいませ」

営業用の笑顔。だが目は笑っていない。

橋本は軽く手を上げる。

「あぁ、昨日もうちのもんが来た思うんやけど」

黒服の表情が、わずかに引き締まる。

「もう一回聞いて来んかいって」

肩をすくめる。

「うちの上司、パワハラしますねん」

黒服は一瞬考える。

「……どういったご用件で?」

「ちょっとでええんで。女の子、一人ずつ話聞かせてもらえんやろか」

黒服は店内をちらりと見る。

「……分かりました。まだ忙しくなる前なんで、一人五分ぐらいまでにして下さい。時給がもったいないんで」

橋本がすぐに頭を下げる。

「すんまへんな、迷惑かけます」

黒服が軽く手を振る。

「こちらへどうぞ」

店の奥へ通される。

一人目。曖昧な返事。二人目。同じような答え。

「あかんな……」

橋本が小さく呟く。

「箝口令、引かれとる」

三人目。

「まぁ、掛けて」

橋本が椅子を引く。

「名前、聞いてええ?源氏名でええから」

「ミホです」

若い。まだ学生の空気が残っている。

「学生さん?」

「はい。デザインの専門学校に」

橋本が笑う。

「見るからに、才能ありそうや」

ミホが照れる。

「えぇー、そーぉ?うれしいわ。前もお客さんに、そんな事言われたけん」

橋本が少し身を乗り出す。

「へぇー、なんて言われたん?」

ミホは少し考えてから話し出す。

「なんか……占いが得意な人で、誕生日教えてって言われて、三月四日って言うたっちゃ。そしたら——」

ミホが笑う。

「“だからミホかー”って。魚座やけん、芸術家に向いとるとか言われたっちゃ」

橋本の目が細くなる。

「ミホちゃん、福岡か?」

「えー、わかると?」

「わかるっちゃ」

空気が和らぐ。橋本は自然に戻す。

「で、その人は一人で?」

「えー……二人やったかな。魔法使いって言われてた。無口な人やったよ」

橋本は頷く。

「どんな話してたか覚えてる?」

ミホの視線が泳ぐ。

「えーと……ミホも誕生日の時は盛大にお祝いされるんか?って。私は学生やけん、そんなんないよって」

一瞬の間。

「……シホさんクラスやないと、って」

ミホの表情が固まる。

「あ……」

口を閉じる。

橋本は何も言わない。ただ待つ。

やがて——

「最後に一つだけええ?」

ミホが小さく頷く。

「その席、他に誰がおった?それだけでええ」

ミホは少し考える。

「……愛子さんから、シホさんに代わったかな」

橋本はゆっくり頷く。

「お名前、聞いてよろしい?」

「源氏名でええから」

「あ、愛子です」

「愛子ちゃんね」

橋本が頷く。

「愛子ちゃんって、誕生日は?」

「十一月二十九日」

橋本がすぐに笑う。

「いい肉食おう、今日も明日もやな」

愛子が吹き出す。

「あは、何それ?」

「いい肉は毎日でも食べたいなって話や」

愛子が笑いながら頷く。

「誕生日って、お客さんに聞かれたりするん?」

「するよ。お祝いしてあげるって言われるから。十一月二十九日って言うたら、だいたい、さっきみたいに“いい肉”が多いわ」

橋本が軽く頷く。

「気の効いた返しする人はおる?」

愛子が少し考える。

「うーん……最初は喜んだけど、後で調べて、しばいたろか思たことあるわ」

橋本が笑う。

「何て言われましたんや?」

「なんや……女帝とか女王様になれる相があるって。喜んでたら、西太后やって」

橋本が目を細める。

「知らんかったん?」

「知らんくて。後で調べたら、三大悪女やんか」

二人とも笑う。

「ミホちゃんには笑われたわ」

橋本が自然に戻す。

「その時は、ミホちゃんと一緒のテーブルやったん?」

「うん。ミッキーの人」

橋本が一瞬止まる。

「……はい?」

愛子が笑う。

「お仕事聞いたらな、“内緒やけど”って。俺がシーで、こいつがランドやって。しかも魔法も使えるって。たぶん童貞なんやろ(笑)」

橋本は表情を崩さない。

「どんな人やった?魔法使いの方は」

「おとなしくて、無口な人。もう一人は、よう喋る人やったわ」

橋本が頷く。

「その人って、シホさんにも誕生日聞いてた?」

愛子が首をかしげる。

「どうやったやろ。シホさんと入れ替わりで、席離れたから」

橋本は小さく息を吐く。また一つ、輪郭がはっきりしてくる。

それから何人かに当たるが、決定的な情報は出てこない。

最後に入ってきたのが、シホだった。

「どうも」

橋本が軽く頭を下げる。

「この度は、大変な目に合われまして」

シホは小さく頷くだけだった。

「必ず、犯人逮捕しますんで。ちょっと協力、お願いできますか」

「……はぁ」

橋本は椅子に腰を下ろす。

「ミホさん、愛子さんに聞きましたんやけど。二人組の客で、愛子さんと入れ替わりで、シホさんが入った日のこと。少し思い出してもらえたらと」

シホは少し考える。

「いつですかね。そういう日は多いから」

橋本はゆっくり頷く。

「一人が、よう喋る人。もう一人が無口。誕生日の話とか、占いの話で盛り上がった」

シホの表情が変わる。

「あぁ……それなら覚えてます」

橋本の視線が鋭くなる。

「占い出来るって言われて、誕生日教えたら、火難の相が出てるって」

「誕生日は何日?」

「15日ですけど」

シホは指先を見ながら続ける。

「そのあと、ライター付けたら、火が指に当たりまして。それ見て、“ほら当たったやろ”って」

橋本が軽く笑う。

「よー当たるんやな。僕も占って欲しいわ。彼女できるか」

空気を崩さずに踏み込む。

「そのヤケドした時のライターって、お店のですか?」

「はぁ……」

シホは頷く。

橋本は間を置かず続ける。

「そのライターって、どうなりました?」

シホの目がわずかに動く。

「……確か、持って帰りはりました」

その瞬間——

「……はっ」

橋本の表情が変わる。

同時に——シホも、わずかに息を飲む。

「あ……」

自分の言葉の意味に、気付いたように。視線が揺れる。

橋本と高橋が目を合わせる。

全てが、繋がった。

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