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【第49話 時間との勝負】

二十一時。会議室の扉が閉まる。

蛍光灯の白い光。机の上には資料が広がり、紙コップのコーヒーが並ぶ。誰も無駄口は叩かない。

捜査会議が始まる。

各班から、順に報告が上がる。

「カメラ、南方は当たりなし」

「聞き込み、進展なし」

短い言葉が積み重なる。

「次」

視線が橋本たちに向く。

「……はい」

橋本が立ち上がる。

「十三、ゴールドスターのキャバ嬢から」

資料をめくる。

「ミカが犯行日に近い日に誕生日やったことが分かりました」

一瞬、ざわつく。

「ただ、詳しい日にちは未確認です。明日にでも、再度当たります」

間を置く。

「それと——関係ない可能性もありますが、ミカの客の一人を特定しました」

空気がわずかに変わる。

「美容師です」

数人が顔を上げる。

「こちらも明日、接触します」

橋本は座る。すぐに別の班が続く。

「カメラ班です」

資料を前に出す。

「現状、二週間前までしか遡れていません。明日、残り二週間を洗います」

本部長は黙ったまま聞いている。

そのとき——

「そういえば」

別の刑事が口を開く。

「ファミーユの現場で出たライターですが」

全員の視線が集まる。

「南方のキャバクラ、“フラッシュバック”の被害者、佐々木さんに確認したところ、店のライターで間違いないとのことです」

小さくざわつく。

「店のライターは、客が持って帰ることも多く、本人の物ではないと」

別の刑事が続ける。

「指紋は、佐々木さんのものと、その他いくつか出ていますが、特定できるものはありません」

本部長が腕を組む。

「……つまり」

低い声。

「元々そこにあったのか、事件の日に犯人が落としたのか、分からんいうことか」

「はい」


「やが——」

机を指で叩く。

「佐々木のこと知ってる客。そう考えるのが筋やろ」

静かな同意が広がる。

本部長が顔を上げる。

「南方のキャバクラから、何か取れたか?」

「……それが」

報告役が顔をしかめる。

「口が固くて、割れません」

一瞬、空気が止まる。

「橋本、高橋」

「はい」

「明日、十三の後に南方行ってこい」

橋本に視線が向く。

「もう一回聞いてこい」

少し間。

「橋本やったら、落とせるかも知れん」

小さな笑いが漏れる。橋本が肩をすくめる。

ずんぐりした体。天然パーマ。日に焼けた肌。笑えば、人懐っこい。

——口から生まれたんちゃうか。

誰もがそう思っている。柔道で潰れた耳。餃子みたいに丸い。

だが——口を開けば、空気を変える。

「任しといてください」

橋本が笑う。

「しゃべらせたら、右に出るもんおらんですわ」

会議室の空気が、少しだけ緩む。

だが——本部長が静かに口を開く。

「車はどうなった」

一瞬の間。

「……廃車業者、当たってますが」

資料をめくる音。

「まだ見つかりません」

小さく舌打ちが落ちる。

「工場はどうや」

別の班が顔を上げる。

「こっちも……」

言葉を選ぶ。

「それらしいとこは、まだ出てません」

空気が重くなる。

だが——本部長はゆっくり頷く。

「ええ」

短く言う。

「ほな、まだ“そこ”におるいうことや」

全員の視線が上がる。

「隠しきれてへん」

机を指で叩く。

「どっかで、必ずボロ出す」


「見逃すな」

「はい」

声が揃う。

さらに続ける。

「特にや」

「黒のヴィッツと、シルバーのマークX。どこに消えたかや」

「スクラップも当たれ。プレス屋も全部や」

「大阪中の整備工場、洗え」

そして——

「ここ一ヶ月以内に、よう似た事案、上がってないか」

「些細なことでもええ」

「もう一回、見直しや」

静寂。

「ええな」

「……はい」

声が揃う。資料が一斉にめくられる。バラバラだった情報が、線になり始める。

その中で、本部長が顔を上げた。

「それとや。各所轄から上がってきた報告の中に、ひとつ気になるのがある」

会議室の空気が引き締まる。

「西淀川署からや。他の二件と同じ時間帯に、マンションのエントランスで男女が揉めてる声がすると、住民から一一〇番通報が入っとる」

誰も口を挟まない。

「パトカーが行って確認するが、現場には誰もおらんかった」

資料を指で叩く。

「ただや。通報者に確認したところ、揉めてた一人が同じマンションの五階に住んでる男やと」

視線が集まる。

「林智也——こと、パク・ジヤやないかと言うとる」

空気が変わる。

「林やけど、こいつは山越組二次団体、信連合の若頭補佐、四十三歳や」

小さく息を呑む音が混じる。

「今、四課からの情報待ちや」

本部長は全員を見渡した。

「これが同一犯やったら、ヤクザにも追われる事になる」

「こいつがトクリュウの指示役で揉めたとも考えられる」

誰も目を逸らさない。

「あいつらより先に見つけなあかんぞ」

「はい」

声が揃う。

会議室の空気は完全に変わっていた。

ただの捜査ではない。

時間との勝負になった。

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