【第48話 もう、同じ静けさではない】
「すみません——」
シャッターの向こうから、声がかかる。
「ちょっとよろしいでっか?」
健の手が、わずかに止まる。顔を上げる。
シャッターの前。男が二人、並んで立っている。
「……はい?」
嫌な予感が、頭をよぎる。
健はそのままシャッターを全開にする。金属の音が、大きく響く。外の光が、一気に流れ込む。
「すみません」
一人が手帳を開く。
「こういう者でして」
空気が変わる。
「今、ちょっと調べておりまして」
「少しお話と……」
視線が、工場の奥へ流れる。
「中、拝見させてもらってもよろしいかな」
健は一歩前に出る。
「もうすぐ仕事やから」
少しだけ間を置く。
「あんま時間ないで」
「分かってます」
すぐに返ってくる。
「軽くでええんで。こっちも仕事で」
二人はそのまま中へ入る。靴音が、コンクリートに響く。工場内を見渡す。視線が止まらない。
「車の修理や車検が主ですか?」
「そうやね」
短く答える。
「廃車の処理とかは?」
一瞬だけ、間。
「……え?」
すぐに言い直す。
「あぁ、依頼があればやらん事もないけど」
刑事の視線が、わずかに動く。
「お一人でされてるんですか?」
「ええ」
健は一瞬だけ視線を落とす。
「……父親が亡くなってからは」
「そうですか」
少し歩く。
「そのドラム缶……」
健の目が、ほんの一瞬だけ動く。
「あぁ」
すぐに答える。
「オイル交換で出たやつ溜めてて」
「溜まったら業者が持って行ってくれるんですわ」
軽く頷く。
「最近は外国人が多いです」
「そうですか」
「石鹸とかになるんですかね」
雑談のように流す。だが視線は、外していない。
「奥のバイクは?」
「あぁ。たまに走らせる時あるんです」
「ここは自宅兼工場ですか?」
「そうです」
「ご家族は?」
「僕一人ですわ」
一瞬の沈黙。小さく頷く。
「分かりました」
手帳を閉じる。
「すみません、忙しいとこ」
少しだけ間を置く。
「また分からん事出てきたら、教えて下さい」
二人は踵を返す。外へ出る。足音が遠ざかる。
工場に、静けさが戻る。
だが——もう、同じ静けさではない。
◆
シャッターが閉まり、外の気配が消える。
健は、しばらくその場に立ったまま動かない。さっきまでのやり取りが、頭の中で何度も繰り返される。
「……」
ポケットから携帯を取り出す。慎二に電話をかける。
呼び出し音。一回。二回。三回——出ない。
「……留守電か」
小さく舌打ちする。
短く打ち込む。
――警察が工場へ来た
――もうあかん
送信。
しばらく、画面を見たまま動かない。時間だけが過ぎる。
やがて——ポケットの中で、携帯が震える。画面を開く。
「大丈夫」
一行だけ。続けて——
「後で顔出す」
健は、その文字をしばらく見つめる。何も言わない。ただ、ゆっくりと携帯を閉じる。
工場の中に、重い空気だけが残る。




