【第4話 距離は詰めへん】
十三のネオンは、夜になると一気に濃くなる。
店の前には、女が数人立っていた。それぞれが客を待っている。笑っているやつ。スマホを見ているやつ。目だけで客を追うやつ。
その中の一人が、慎二に気づく。
「あ」
すぐに寄ってくる。
「来てくれたーん」
あのときの女や。慎二は軽く手を上げる。
「おー。ここやったんかー」
看板を見上げるふりをする。
「探したでー」
適当や。女は笑っている。
「うそやん」
慎二は肩をすくめる。
「今日はな」
少しだけ声を落とす。
「手持ちも少ないし、さくっとフリーで入るわ」
女の顔が少し曇る。
「はぁ? 指名してや」
半分本気や。慎二は笑う。
「また今度な」
振り返らへん。そのまま店に入る。
◆
店の中は、外より暗い。音と光だけが強い。
席に座ると、すぐに女が来る。
「いらっしゃいませー」
隣に座る。グラスが当たる。
「かんぱーい」
軽い音や。女はすぐに距離を詰めてくる。
「お兄さん、初めて?」
「まぁな」
適当に返す。視線は別の方向や。店の奥。あそこだけ空気が違う。
しばらくして、女が入れ替わる。今度は少し落ち着いた女や。
「こんばんはー」
ゆっくりと座る。
「今日バタバタしてんねん」
「なんかあんの?」
「誕生日」
その瞬間や。
ヒールの音が近づく。
「お待たせしました」
顔を上げる。
ミカや。
セミロング。長身。色白。切れ長の目。派手やない。せやのに、目が離れん。周りの女とは、はっきり違う。
「ボーイさんから聞いたんですけど」
ミカが軽く笑う。
「ナンバーワンって誰、って聞きはったとか」
柔らかい声や。せやけど、逃がしてへん。
慎二は一瞬だけ止まる。すぐに笑う。
「ちょっと気になってな」
「そうなんですね」
それだけや。
「今度、指名してもええかな」
「もちろんです。お待ちしてますね」
ミカは名刺を差し出す。慎二はそれを受け取る。
ミカ。それで十分やった。
◆
店を出ると、夜の空気が少し軽い。
慎二はすぐには動かへん。通りの端で、入口を見張る。
少し離れた場所。健はバイクの上で、エンジンを切ったまま待っていた。
街の音だけが流れている。人の声。ヒールの音。遠くの信号。
自分が何をしているのか、分かっている。せやのに、体は動いていた。
——来た。
ミカや。
客と店の前で別れる。そのまま送迎の車へ向かう。黒いワンボックス。運転手が乗る。女が数人、続けて乗り込む。五人ほどや。ミカは最後や。
ドアが閉まる。エンジンがかかる。
その瞬間、携帯が一度だけ震えた。
慎二からや。
健はエンジンをかけた。
ワンボックスが動く。少し遅れて、バイクも動く。
距離は詰めへん。せやけど、見失わへん。
それでええ。
そう言い聞かせながら、健はアクセルを握り続けた。




