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【第46話 もう一度、話を】

捜査一課のフロアは、朝からざわついていた。電話の音。コピー機の唸り。誰かの怒鳴り声。空気が常に動いている。

「高橋、橋本」

班長の低い声が飛ぶ。二人は同時に顔を上げる。

「お前らは——」

資料を机に叩きつける。

「十三のキャバクラ行ってこい。全員と面談や」

橋本に視線が刺さる。

「お前の口で、割らしてこい」

橋本が肩をすくめる。

「はいはい」

高橋は苦笑いを浮かべる。

周りでは、別の班にも次々と指示が飛んでいる。地図が広げられ、ペンが走る。

タカモトコンビは、その場に残る。パソコンの画面に、大阪中の自動車工場のデータが並ぶ。数字と住所が、びっしりと詰まっている。

「……あかん」

橋本が椅子の背にもたれかかる。天井を見上げる。

「こんなん無理やろ」

画面を指でなぞる。

「何軒ある思とんねん」

高橋は画面から目を離さない。

「とりあえず市内からや」

マウスを動かす。

「個人経営と、登記は会社やけど実質個人のとこ。そこ絞る」

橋本が小さく笑う。

「結局、足で回るやつやん」

キーボードの音だけが、しばらく続く。

昼過ぎ。

「……あかん」

橋本が立ち上がる。椅子がわずかに軋む。

「出よ」

二人はフロアを抜ける。外に出ると、昼の光が強い。アスファルトが白く照り返している。

駐車場。シルバーのキザシ。ボディに薄く埃が乗っている。

ドアを開け、乗り込む。エンジンをかけると、軽く振動が伝わる。

「まだ早いやろ」

橋本がシートに沈みながら言う。

「ちょっとラーメンでも食お」

高橋がハンドルを切る。

「そこの塩ラーメン。この時間やったら空いてるやろ」

だが——店の前には、数人の列。暖簾が揺れている。中から湯気とスープの匂いが流れてくる。

「……しゃあないな」

並ぶ。橋本がぼそっと言う。

「夕方前にラーメン食うかね」

高橋が笑う。

「どの口が言うてんねん」

鍋の音。麺を上げる音。腹が鳴る。

やがて——十六時。十三。

コインパーキングにキザシを滑り込ませる。車を降りると、街の空気が変わる。ネオンが点き始め、看板が光り出す。客引きの声。笑い声。昼と夜の境目。

二人はビルへ向かう。キャバクラの入口。重たい扉の向こう。

仕事の時間や。

キャバクラ〈ゴールドスター〉

営業前の店内は、まだ灯りが半分しか点いていなかった。フロアには誰もいない。ソファーの隙間やテーブルを、ボーイが黙々と拭いている。アルコールの匂いが、うっすらと漂う。

「すんまへん」

声をかけると、ボーイが顔を上げた。一瞬、眉が寄る。

「店長さん、いてはりますか?」

「えーと……何か御用ですか?」

掃除の手は止まらない。だが、視線だけがこちらを探る。

橋本はポケットから手帳を取り出す。軽く開く。

「こういうもんで」

その瞬間——ボーイの表情が、わずかに固まる。ほんの一瞬。だが、確かに変わった。

「……ちょっと待って下さい」

雑巾をその場に置き、奥のオフィスへ消える。

店内に、静けさが戻る。エアコンの音だけが響く。

やがて——

「はい」

奥から男が出てくる。私服のまま。まだネクタイも締めていない。

「何か御用でしょうか」

柔らかい口調。だが、目は笑っていない。

橋本が一歩前に出る。

「いえね」

軽く頭を下げる。

「先日は、違う者が伺った思うんですが」

言葉を選ぶように続ける。

「ちょっと聞きそびれた事がありましてね」

間を置く。

「もう一度、皆さんから話、聞かせてもらえんやろかと」

店内の空気が、わずかに張り詰める。

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