【第44話 ドラム缶】
結局、慎二は次の日も仕事を休んだ。
昼前。健の工場に顔を出す。昨日の雨が嘘みたいに、空は晴れている。
「このまま終われんやろ」
健は工具を触ったまま、顔を上げない。
「……もう終わった」
「誰か違うの誘え」
慎二が苦笑する。
「冷たいのぉ」
健は短く返す。
「そういう約束や」
少しだけ間が空く。
「それはそうと」
慎二が周りを見渡す。
「健坊、あの金……どこにしもた?」
声を落とす。
「俺、まだ隠せてないんや」
健は何も言わず、顎で奥を示す。
ドラム缶。工場の隅に置かれた、黒ずんだ容器。
「……えっ」
慎二が近づく。中を覗き込む。すぐに顔をしかめる。
「廃油やんけ」
「そうや」
健は淡々と言う。
「そこに沈めた。五百万ずつラップで巻いて、フリーザーバッグに入れて」
少し間を置く。
「錘と一緒に」
慎二の口元が緩む。
「ほぉー……なるほどな」
健は肩をすくめる。
「捕まって家宅捜査入っても、見つからんやろ思ってな」
少しだけ視線を外す。
「まぁ……警察はそんな甘ないやろけど」
慎二が頷く。
「被害額と合わんし、そこまで本気で動かんやろ」
「なるほどな……」
慎二はもう一度、ドラム缶を見る。黒い液体。底は見えない。
「俺も入れてええか」
健はあっさり答える。
「ええよ」
工場の中に、油の匂いだけが残る。
◆
「昼行こか」
近くの中華料理屋へ入る。お昼時とあって、繁盛している。一つテーブルが空いていたので腰掛ける。
手荒に水が置かれる。
「ご注文は?」
慎二はラーメンと半チャーハンのセットを、健は酢豚の定食を頼む。
店のテレビでは、昼のニュースが流れている。
慎二がテレビを見たまま言う。
「野里のやつ、ニュースなってへんな」
ラーメンをすすりながら続ける。
「もう二日やで」
健は酢豚をつつきながら答える。
「被害届、出てへんのやろ」
「なるほどな」
慎二が頷く。
少しして、慎二が口を開く。
「あのMASERATIって、お前の工場にあったやつか」
「あぁ」
健は短く返す。
慎二はチャーハンを口に運びながら言う。
「健坊が偵察行ってたら、良かったかもな」
「千秋の男とは思ってへんやろうし、同じやったやろ」
一瞬だけ間が落ちる。
「……まぁ、結果は同じか」
健は何も言わない。
慎二が続ける。
「ヤクザの車やから」
「貸してくれんかったんやな」
「そうや」
健は短く答える。
「細かいとこにうるさいんや」
テレビの音だけが流れる。




