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【第39話 ケガもさせたくない】

半分閉まったシャッターを、手で押し上げる。鉄の擦れる音が、静かな工場に広がる。

慎二はエンジンを切ったまま、黒のZRXを押し入れた。タイヤがコンクリートの床を重く転がる。油と鉄の匂いが、ゆっくりと戻ってくる。

中は薄暗い。奥のソファーに、健が座っている。背もたれに体を預けたまま、動かない。

慎二はバイクを止め、スタンドをかける。乾いた音が、やけに大きく響く。

「どんな感じや」

健が顔を上げる。

慎二はヘルメットを外し、首を軽く回す。まだ外の空気を引きずっている。

「えらい盛況や」

少し口元が緩む。

「ごっつい花輪が、ぎょうさんあったわ」

健はじっと聞いている。何も挟まない。

「千秋の誕生日や」

「店の前、目立ちすぎるぐらいやった」

工場の中に、少しだけ間が落ちる。

「期待できるで」

その言葉だけが残る。

健はゆっくりと視線を落とす。考えている。何かを測るように。

零時を少し回った頃、マンションにはすぐに着いた。

雨は細かく降り続いている。街灯に照らされ、白く浮いて見えた。

黒のZRXを、一方通行の細い道に停める。エンジンを切ると、音が一気に消える。残るのは、雨の音だけ。

「カメラの死角で、潜めるとこ探してくる」

慎二が言う。ヘルメットを被ったまま、歩き出す。足音は、雨に紛れる。

健はその場に残る。バイクに跨ったまま、動かない。視線だけが、マンションの入口に向いている。

しばらくして、慎二が戻ってくる。濡れた路面を踏みしめながら。

「潜めるとこ、見つけたが……」

少しだけ言葉を切る。

「車が見えにくい」

健は短く頷く。

「到着したら、連絡くれ」

「分かった」

少し間が落ちる。雨音だけが続く。

「くれぐれも無理すんなよ」

健が言う。

「それと……ケガもさせたくない」

その言葉に、慎二は何も返さない。ただ、一度だけ小さく頷く。

再び、夜が静かになる。

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