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【第35話 俺がつけるわ】

店を出ると、音が一気に遠のいた。さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かになる。ネオンだけが、やけに明るい。

慎二はポケットに手を入れたまま歩き出す。支払いの十万は慎二が出していた。

健は何も言わず、その後ろをついていく。

「ちょっと腹減ったな。ラーメン食べようか」

健が答える。

「日本最古のラーメン屋、閉まってたか」

慎二が笑う。

「どこでもええか」

「ええよ」

二人はそのまま歩く。

「それより」

健が口を開きかける。


「……やめとこ」

「今回、時間が足りんて」

慎二が足を止める。振り返る。何も言わずに健を見る。

「もう今日、尾行せないかん事になるぞ」

健の足が止まる。

「健坊、何杯飲んだ?」

「千秋がすぐに作るからな」

「十杯は飲んだか」

慎二は頷く。

「俺は喋りに夢中で、ほとんど飲んでない。明後日が誕生日や言うてからは水しか飲んでない」

健は何も言わない。

「俺がつけるわ」

その一言で、意味は十分だった。

「まだ十時や」

慎二が歩きながら言う。

「ラーメン食べて、工場戻って」

そのまま続ける。

「俺がバイクで行く」

健は横で黙って聞いている。ネオンの光が、二人の影を引き伸ばす。

「お前は先戻っとけ」

「飲んでるしな」

健は小さく息を吐く。

「……分かった」

短く答える。

二人はそのまま歩き続ける。店の明かりから、少しずつ離れていく。夜が、さっきより静かになる。

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