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【第27話 カラン】

美容院を出ると、外はすでに夕方の色に変わっていた。街のざわめきが少しずつ濃くなり、駅の方へ人の流れができている。

二人は並んで歩き出した。

「何食う?」

慎二が何気なく聞く。

「お寿司がいいな」

女は迷いなく答える。

「ええな」

少しだけ考えて、続ける。

「駅前の、寿司一徹行こか」

「うん」

女はすぐに頷く。

「好きなん、注文しいや」

そう言うと、女は笑った。

「今日は車とちゃうん?」

慎二は首を振る。

「今日はちゃうねん」

少し間を置いて、

「チャリや」

女がくすっと笑う。

「クラウン、良かったわ」

思い出したように言う。

「匂いは好きちゃうけど」

軽く笑う。慎二は何も言わない。ただ、前を見たまま歩いていた。

寿司屋を出ると、夜の空気が少しだけ冷えていた。店の灯りが背中で遠ざかる。

女は満足そうに息を吐く。

「美味しかったな」

「せやな」

短く返す。

しばらく歩く。駅前のネオンが、にじむように広がっている。

女がふと立ち止まる。

「ちょっと飲み直そうか。BARでも」

軽い調子で言う。

慎二は一瞬だけ考える。

「……ええで」

女はすぐに歩き出した。ネオンの方へ。

慎二は少し遅れてついていく。ポケットに手を入れる。何もない。

あのライター。

一瞬だけ、昨夜の光景がよぎる。すぐに消す。

今は関係ない。

そう思いながら、足を進める。

BARの扉を押すと、外の喧騒が一気に遠のいた。薄暗い照明。低く流れる音楽。

二人はカウンターに並んで座る。

「何飲む?」

女が聞く。慎二はメニューを見ずに答える。

「俺はコルドン、ロックで」

女は少しだけ考えて、

「私はスプモーニ」

と続けた。

氷の音が静かに響く。グラスが目の前に置かれる。慎二はコルドンを一口だけ飲む。

やがて、慎二が少し身を乗り出す。

「でさ……」

グラスを揺らしながら聞く。

「事情聴取って、どんな事聞かれるん?」

女はストローを回しながら、少しだけ間を置く。

「まぁ……時間とかやな」

淡々と答える。

「何時に帰ってきたとか、どこで何してたとか」

慎二は頷く。

「ふーん……」

少し考えるようにして、続ける。

「一人一人、呼ばれてな。順番に話聞かれるんよ」

女は何も言わない。氷の音だけが小さく鳴る。

「刑事が二人でさ」

女は少し笑う。

「初めて警察手帳みたわー」

軽い口調。だが、その奥に不安が残っている。

「でな、店から“余計なこと言うな”って言われてて」

声が少し落ちる。

「誕生日やったとかは言うてない」

慎二の手が、わずかに止まる。女は気づかない。

「ミカさんにはどんな客がついてるんか、とか。送迎されるんか、とか。いろいろ聞かれたわ」

グラスを口に運ぶ。

「だいたい、“さぁ”とかで答えといたけど」

軽く笑う。

「めんどくさいし」

慎二は何も言わない。グラスの中の氷だけを見つめていた。

カラン、と音が鳴る。

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