【第26話 横流すなよ】
「コニチワ」
シャッターの隙間から、クォンが体を滑り込ませた。外の光が一瞬だけ差し込み、すぐにまた陰に戻る。
健は奥でしゃがみ込んだまま、手を動かしている。工具の音だけが、乾いたリズムで響く。
クォンはゆっくりと中へ進み、視線を巡らせた。
油の匂い。湿った空気。その奥に、二台の車が並んでいる。
黒のヴィッツ。その横に、シルバーのマークX。
クォンの足が止まる。
「オオ……ドッチモ、ヨウ使ッタナ」
軽く笑う。健は顔を上げない。
「……ああ」
短く返す。
クォンはヴィッツのボンネットを指で叩く。
「コレモ、アレモ……ウチカラ出シタヤツナ」
健は何も言わない。否定もしない。それで十分やった。
「デ、ドウスル?」
健はスパナを置き、ゆっくり立ち上がる。二台を一度見てから、短く言う。
「両方とも、パーツ取った後で解体してくれ」
クォンの眉がわずかに動く。
「……リョウホウ?」
健は答えない。視線だけで示す。
クォンは小さく笑う。
「カエシテ、バラスカ」
振り返る。
「グェン」
シャッターの外に声をかける。すぐに、影が動く。外で待っていたグェンが中へ入ってくる。二台の車を見て、静かに頷く。
クォンが続ける。
「キシワダ、モッテイク?」
健は作業台から偽造プレートを取り上げる。
「……これ、つけとけ」
クォンは受け取り、軽く確認する。
「ヨウイ、ハヤイナ」
健はポケットから札束を取り出す。無造作に差し出す。
「ほな、これで」
クォンはそれを受け取り、ざっと数える。
「……ニジュウマン」
小さく頷く。
健は一歩だけ近づく。
「あと、横流すなよ」
クォンは一瞬だけ目を細める。すぐに笑う。
「ワカテル、ワカテル」
軽く手を振る。
だが、その目は笑っていない。
グェンはすでに工具を手にしている。二台の車に歩み寄る。無駄な会話はない。
金属音が、静かに響き始めた。




