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【第25話 軽い】

夕方。営業中の美容院に、わずかな静けさが流れていた。

ちょうど客が途切れ、店内には慎二一人だけが残っている。

そのとき、入口の外で女が中を覗いていた。慎二は鏡越しにそれに気づく。軽く手を上げる。

「どうぞ」

女は少し迷ったようにしてから、店に入ってきた。椅子に腰を下ろすなり、身を乗り出す。

「この前の話なんやけどな」

慎二は何気ない顔でハサミを手に取る。

「え、どの話」

「言うたやん。襲われたって」

「ああ……言うてたな」

とぼける。

「犯人、捕まったんか?」

「まだやねんけどな」

女は声を少し落とす。

「私がここでしゃべったこと、誰にも言わんといて欲しいねん」

「え……まぁ言わんけど」

鏡越しに女を見る。

「何で?」

「あのあと店に行ったらな、オーナーから“誰にも言うたらあかん”って」

少し間を置く。

「それで、五万もろてん」

軽く笑う。

慎二はその笑顔を見て、視線を落とした。

――あかん。こいつは、軽い。

「そうなんや」

何でもないように返す。少しだけ間を置く。

「もうすぐ閉めるから……飯でも行くか?」

女は一瞬だけ目を丸くする。すぐに笑う。

「え、ほんま?」

軽い返事。迷いはない。

「でも、ちょっとだけな」

そう言って、鏡の中の自分を見つめ直した。

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