【第19話 外すなよ】
次の日の夜。塚本の焼鳥屋、「焼鳥劇場」。
暖簾をくぐると、炭の匂いと煙が鼻に残る。店内はほどよく賑わっているが、奥のカウンターはいつも通り落ち着いていた。
健は迷わず一番奥へ向かう。そこに、慎二が座っている。すでに何本か串が並び、ビールのグラスには半分ほど残っている。
健は隣に腰を下ろした。何も言わず、同じものを頼む。
グラスが置かれる。一口飲む。それから口を開いた。
「押さえた」
慎二は顔を上げない。串を一本持ち上げ、そのまま聞く。
「どこや」
「中津。川沿いのマンションや」
慎二がわずかに頷く。
「名前は」
「ファミーユ中津北」
その瞬間、慎二の手が止まる。
「……古いな」
健はグラスを傾ける。
「江坂のグランドエステートに比べたらな」
慎二が小さく笑う。
「中は」
「甘い。オートロックはあるけど、抜けれる」
「カメラは?」
「エントランスとエレベーター」
「廊下は?」
「ない」
会話は短い。だが必要な情報は揃っている。
慎二はしばらく黙ったまま、串を皿に戻した。
「階は」
「十階」
一拍。
「部屋も押さえた」
慎二がゆっくり顔を上げる。
「……ほう」
健はグラスを置く。
「エレベーターから三つ目、中央寄り」
「帰りで見た」
慎二は視線を落とし、頭の中で配置をなぞる。
「シホは」
「一人で帰っとる」
健が続ける。
「けど」
言葉を切る。慎二の目がわずかに動く。
「ファミリー向けの造りや」
空気が一瞬変わる。
慎二が小さく言う。
「……子持ちか」
健が頷く。
「可能性はある」
周囲の喧騒が遠のく。
慎二はグラスに手を伸ばし、一口飲む。それから言う。
「張るか」
健は首を振った。
「張れん」
「お互い仕事あるやろ」
慎二は黙る。グラスを持ったまま、少しだけ考える。
「……せやな」
健が続ける。
「時間絞るしかない。店終わりや。帰りだけ押さえる」
慎二が頷く。
「ピンで見るか」
「それやったらいける」
短いやり取り。だが方向は決まった。
慎二が静かに言う。
「外すなよ」
健は迷わず返す。
「あぁ」




