表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/71

【第18話 あそこやな】

その日の夜。

マンションをぐるりと回ると、裏手に出た。人の気配はなく、街灯の明かりだけが外壁を照らしている。健は歩きながら視線を上げた。各階の廊下が外に開けている構造で、奥にはエレベーターの動きもわずかに見える。

エントランスを通らずとも、この高さなら壁を越えて中に入れる。健は足を止め、距離と高さを測る。踏み切る位置、手のかかり、着地の音――頭の中で一通りなぞる。だがすぐに視線をずらした。角に設置されたカメラが、こちらを見下ろしている。

無理に入る場所ではない。

一度引く。

少し離れた位置へ移動する。街灯の影に身を置くと、各階の廊下とエレベーターの動きがはっきりと見える。健はその場に立ったまま、目を慣らす。人の流れ、灯りの点き方、音の反響――細かな変化を拾いながら、しばらく観察を続けた。

「……よし」

小さく呟き、車へ戻る。

ドアを開けて乗り込み、そのままエンジンをかける。マークXが静かにその場を離れた。

しばらくして。

黒のZRXが低い音を抑えながら、マンション近くへ滑り込む。回転を落とし、クラッチを切る。惰性のまま影へ流し込み、車体を寄せる。

そこでエンジンを落とした。

夜が一段、静かになる。

健はバイクを降り、建物の陰に身を寄せる。先ほど確認した位置に体を置き、視線を上げる。マンションの正面と廊下の両方を押さえられる角度だ。

待つ。

時間が流れる。通りを抜ける車の音が遠ざかり、やがて夜が深くなる。

そのとき、タクシーのライトが視界に入った。

「……来た」

低く呟く。

マンションの前で停まる。シホが降りる。

その動きに合わせ、健は位置をずらす。足音を殺し、廊下が見える位置へ移る。

シホがエントランスに入る。

数秒。

エレベーターのランプが動き出した。一階から、ゆっくりと上がっていく。

健は視線を外さない。

二階、三階、四階――止まらない。五階、六階、七階。まだ上がる。八階、九階。

そして、十階で止まった。

健は息を止めたまま、そのまま見続ける。

エレベーターは動かない。廊下の灯りにも変化はない。

「……そこやな」

小さく呟く。

そのまま動かず、さらに様子を見る。

十階の廊下に目を凝らす。やがて、ひとつ灯りが点いた。わずかに遅れて、別の部屋にも光が入る。

だが最初の一つだけ、点き方が違った。一瞬遅れて、ふっと明るくなる。

人が入った灯りだ。

健は目を細める。位置を測る。

エレベーターから数えて、三つ目。角ではない。中央寄りの部屋。

ベランダに目を向ける。カーテンがわずかに揺れる。一度だけ、人影が横切った。それ以上の動きはない。

健は視線を外さず、もう一度エレベーターの表示を見る。

動かない。他の階にも動きはない。

条件は揃っている。

「……あそこやな」

小さく呟く。

ようやく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ