【第16話 後は下見やな】
ある日の二十二時。
「おぅ」
慎二が車に寄りかかりながら声をかける。
「あれ、もうクラウンもMASERATIもないんか」
「あぁ、もう終わったから返した」
「そんで、これか」
視線の先には、代車として出していたマークXが置かれていた。
「行くか。ちょっとラーメンでも食お」
「わかった」
店を出たあと、慎二がぽつりと呟く。
「久しぶりに、こってり食うたわ。若い時に食うた時は衝撃やったけどな」
誰に向けるでもなく、一人でしゃべる。
◆
南方。キャバクラ近くの路地で、健は車を停めた。慎二は様子を見るため外へ出る。
時間が流れ、零時を過ぎたころ。店から数人の女性が、運転手と黒服に挟まれながらビルを降りてきた。そのまま白のハイエースに乗り込んでいく。
だが、ナンバーワンのシホの姿はなかった。
「……ん」
慎二の目が細くなる。
やや遅れて、黒服とシホが降りてくる。黒服が迎車のタクシーを呼び、シホを中に入れてドアを閉める。軽く頭を下げる。
慎二はその一連を見届け、車へ戻る。助手席に乗り込みながら言う。
「健坊、タクシーや」
エンジンがかかる。タクシーは新御堂筋を南へ向けて走り出す。その後ろ、間に一台挟んでマークXがつく。
信号が変わる。黄色から赤へ。
「いけ」
慎二が低く言う。健はアクセルを踏む。
ギリギリ、タクシーと同じタイミングで交差点を抜けた。
慎二がバックミラーを見る。赤色灯は光っていない。
「危なかったのー」
小さく息を吐く。
健は前を見たまま言う。
「バイクにしたらよかったか」
慎二が首を振る。
「いや、お前にばっかり申し訳ないやろ」
タクシーは淀川を越えたところで速度を落とし、右へ寄る。そのまま中津方面へと降りていく。マークXは距離を取りながら追う。
道は入り組み、人通りも車も減っていく。
「……バレるか」
慎二が小さく呟く。
やがて、川沿いに白い建物が見えてきた。十階ほどの高さ。新しいマンションではないが、小綺麗に整っている。
タクシーはその白いマンションの前で停まった。
健は速度を落とし、そのまま通り過ぎる。ミラー越しに様子を追う。
シホが降りる。料金を払い、軽く頭を下げる。そのままエントランスへ向かい、マンションの中へと消えていった。
タクシーはすぐに走り去る。
「よし」
慎二が短く言う。一拍置いて、続ける。
「後は下見やな」




