【第15話 担々麺】
店を出ると、夜風が頬に当たった。さっきまでの店の熱気が嘘のように引いていく。
二人は並んでしばらく歩いた。背中のネオンが遠ざかっていく。
角を曲がると、赤い看板が目に入る。湯気が外まで漏れ出していた。
慎二が顎で示す。
「担々麺、食べよか」
「あぁ」
暖簾をくぐると、狭い店内に香辛料の匂いが充満していた。カウンターだけの店で、奥では鍋が忙しなく鳴っている。
席に着くと、水が置かれた。
健がスマホを取り出す。
「食う前に、代行、電話しとくわ」
慎二は軽く肩をすくめる。
「そんなん近いねんからバレへんて」
健は画面を見たまま、首を振った。
「そういうとこや。履歴に残るやろ」
発信音が鳴る。
「……あぁ、南方や。二人。一時間後ぐらいで頼むわ」
短く用件だけを伝え、通話を切る。
ちょうどそのタイミングで、担々麺が運ばれてきた。健のは汁がない。慎二はそれを一瞥し、箸を取った。
一口すすり、わずかに頷く。
「山椒、よう効いとるな」
「あぁ」
それきり、しばらくは無言だった。箸の音と、奥の鍋の音だけが響く。
ふと、慎二の手が止まる。
「……どうしたんや」
健が顔を上げる。
慎二は丼を見たまま、ぽつりと言った。
「いや……ほんまにやるんか」
健はすぐには答えなかった。一口食い、ゆっくりと飲み込む。
「やるよ」
短い返事だった。
慎二はそれを聞いて、わずかに頷く。
「……そうか」
小さく息を吐く。
「まあ、後で詰めよか」
それ以上、言葉は続かなかった。
二人は黙って食べ終えた。
◆
店を出ると、外の空気が少し冷えている。しばらくして代行の車が来た。二人は無言のまま乗り込む。
流れる街灯の中、会話はなかった。
御幣島の健の工場へ着いたのは、二十三時を過ぎていた。車を降りると、周囲は静まり返っている。
慎二が口を開いた。
「まず、家見に行かなあかんな」
健が頷く。
「いつ入ってるかは、店に電話したら分かるやろ」
慎二は少しだけ考え、短く答えた。
「……せやな」




