表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/71

【第13話 これで終わりやな】

夜。美容室の帰り。

健の自動車整備工場のシャッターは半分閉まっている。

工場の中。明かりは落としてある。袋が一つ。カウンターの上。

健がそれを見る。

「……どこに置くんや」

慎二はタバコに火をつける。煙を吐く。

「どこって」


「なあ、こんな大金」

慎二は答えん。

「銀行はあかんし……埋めとくか?」

慎二は笑う。短く。

「アホか。土にかえってまうわ」


健がぽつりと言う。

「犯罪の金って、捕まったら返さなあかんのやろ。でも……被害額、三万やったら、そのままでええんちゃうん」

慎二は小さく笑う。

「……どうやろな」

袋に手をかける。持ち上げる。重さがある。

「バレへんかったら、関係ないやろ」

空気が変わる。少し間。

「……もう一回やろか」

間髪入れず。

「アホか」

健の声が強くなる。

「殺人未遂やぞ。捕まってみい。殺意は無かったです、言うんか」

慎二は何も言わん。タバコの火だけが動く。

「……いける」

小さく。

「いける、ちゃうわ」

沈黙。慎二は灰を落とす。

「バレてへん。今回も」

健は言葉を失う。

少し間。慎二が続ける。

「……俺はな、理不尽な世の中で、必死にやってきただけや」

煙を吐く。

「中学出て、美容師なって、下働き、何年もやって」


「やっとや」

視線は動かん。

「それでもな、大学で遊んどったやつらが、社会出た途端、上行きよる」

小さく笑う。

「何やねん、って思わんか」

健は何も言わん。

「健坊もそうやろ。親父さん亡くなって、ずっと働いてきたやろ。休まずにな」


「……なあ」

少しだけ声が低くなる。

「ちょっとぐらい、俺らも、報われてもええやろ」


「うちのオーナーなんか見てみい。美容室、十店舗やで」

小さく鼻で笑う。

「安い給料でこき使うて、辞めたら、また若いの入れて。同じことの繰り返しや」

煙を吐く。

「俺かてな、腕には自信ある」

視線を落とす。

「自分の店、持ちたい思てもええやろ」


健が顔を上げる。重い口を開く。

「……それはええと思う。でもな」

慎二は動かん。

「人の金で店出しても、うまくいかん。必死になってるつもりでも、なれへんもんや」

静かになる。

慎二はタバコをくわえ直す。

「……俺らな、中卒には、辛い世の中や」

健は動かん。

「よう、一緒に泣いたやろ」


「なあ」

視線を向ける。もう一度。

「……なあ」

健は目を閉じる。一瞬だけや。息を吐く。

「……ほんまに、これで終わりやな」

慎二は小さく頷く。

「……ああ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ