【第13話 これで終わりやな】
夜。美容室の帰り。
健の自動車整備工場のシャッターは半分閉まっている。
工場の中。明かりは落としてある。袋が一つ。カウンターの上。
健がそれを見る。
「……どこに置くんや」
慎二はタバコに火をつける。煙を吐く。
「どこって」
「なあ、こんな大金」
慎二は答えん。
「銀行はあかんし……埋めとくか?」
慎二は笑う。短く。
「アホか。土にかえってまうわ」
健がぽつりと言う。
「犯罪の金って、捕まったら返さなあかんのやろ。でも……被害額、三万やったら、そのままでええんちゃうん」
慎二は小さく笑う。
「……どうやろな」
袋に手をかける。持ち上げる。重さがある。
「バレへんかったら、関係ないやろ」
空気が変わる。少し間。
「……もう一回やろか」
間髪入れず。
「アホか」
健の声が強くなる。
「殺人未遂やぞ。捕まってみい。殺意は無かったです、言うんか」
慎二は何も言わん。タバコの火だけが動く。
「……いける」
小さく。
「いける、ちゃうわ」
沈黙。慎二は灰を落とす。
「バレてへん。今回も」
健は言葉を失う。
少し間。慎二が続ける。
「……俺はな、理不尽な世の中で、必死にやってきただけや」
煙を吐く。
「中学出て、美容師なって、下働き、何年もやって」
「やっとや」
視線は動かん。
「それでもな、大学で遊んどったやつらが、社会出た途端、上行きよる」
小さく笑う。
「何やねん、って思わんか」
健は何も言わん。
「健坊もそうやろ。親父さん亡くなって、ずっと働いてきたやろ。休まずにな」
「……なあ」
少しだけ声が低くなる。
「ちょっとぐらい、俺らも、報われてもええやろ」
「うちのオーナーなんか見てみい。美容室、十店舗やで」
小さく鼻で笑う。
「安い給料でこき使うて、辞めたら、また若いの入れて。同じことの繰り返しや」
煙を吐く。
「俺かてな、腕には自信ある」
視線を落とす。
「自分の店、持ちたい思てもええやろ」
健が顔を上げる。重い口を開く。
「……それはええと思う。でもな」
慎二は動かん。
「人の金で店出しても、うまくいかん。必死になってるつもりでも、なれへんもんや」
静かになる。
慎二はタバコをくわえ直す。
「……俺らな、中卒には、辛い世の中や」
健は動かん。
「よう、一緒に泣いたやろ」
「なあ」
視線を向ける。もう一度。
「……なあ」
健は目を閉じる。一瞬だけや。息を吐く。
「……ほんまに、これで終わりやな」
慎二は小さく頷く。
「……ああ」




