【第12話 急げ】
大阪府警吹田署に、捜査本部が立ち上がった。
室内は慌ただしい。電話の音。紙をめくる音。低い声が飛び交う。
捜査本部には、総勢五十名。捜査員たちが並ぶ。誰も無駄口は叩かん。耳を傾けている。
前に立つ刑事が口を開く。
「被害者は飲食店店員……キャバや」
「当日は誕生日や。相当、ご祝儀持っとるはずや」
「……せやのに、被害額は三万」
別の刑事が顔を上げる。
「……たぶん、やられとるな」
空気が少し変わる。
「せやけど、キャバ嬢が本当のこと言うか?」
「言うたら税務署が黙ってへん。言われへんやろな。店も同じや。売上の話なんか出さん」
別の刑事が小さく頷く。
「店の子らにも箝口令やろ」
一瞬、沈黙。
「ほな……」
一人が呟く。
「三万は表。裏に、もっとある」
少し間。別の刑事が口を開く。
「……どれぐらいやろな」
一人が肩をすくめる。
「一千万は下らんやろ」
小さく息を吐く。
「はぁ……二年は仕事せんでええな」
誰も笑わん。すぐに視線を戻す。
別の刑事がぼそっと言う。
「……それ、持ってかれとるんやったらな」
空気が一瞬で締まる。
前に立つ刑事が声を張る。
「ええか」
「防カメ、全部洗え。エントランス、周辺、出入口。時間は前後広げろ」
「Nシステムも当たれ。周辺の出入り、全部や」
「住民への聞き込み。時間帯、人物、音。細かいとこまで拾え」
声が低くなる。
「キャバや。店、従業員、客。全部当たれ。口は固い思え。それでも崩せ」
さらに続ける。
「店の周辺もや。出入りしとる奴、全部洗え」
最後に。
「被害者周辺。太客や。金、動いとるはずや」
静かになる。
「急げ」
全員が一斉に動き出した。




